書評

『団地の空間政治学』(NHK出版)

  • 2020/07/31
団地の空間政治学  / 原 武史
団地の空間政治学
  • 著者:原 武史
  • 出版社:NHK出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(296ページ)
  • 発売日:2012-09-26
  • ISBN-10:4140911956
  • ISBN-13:978-4140911952
内容紹介:
高度成長期に燦然と輝いていた団地文化とは何だったのか?香里団地、ひばりケ丘団地、常盤平団地など、東西の大団地をフィールドワークし、埋もれた資史料を調査した著者が、躍動する団地自治の実態と住民の革新的な政治意識を明らかにする。さらに沿線の鉄道からの影響や、建築・設計上の特徴をも考察し、団地をアメリカ的ライフスタイルの典型と捉える従来の史観に再考を迫る。今日の団地の高齢化や孤独死問題が生じた淵源を、コミュニティ志向の衰退と個人主義台頭の歴史に探り、知られざる政治思想史の一断面を描出する画期的論考。
レッドアローとスターハウス :もうひとつの戦後思想史【増補新版】 / 原 武史,
レッドアローとスターハウス :もうひとつの戦後思想史【増補新版】
  • 著者:原 武史,
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(442ページ)
  • 発売日:2019-05-22
  • ISBN-10:4106038439
  • ISBN-13:978-4106038433
内容紹介:
「西武」と「団地」は、東京郊外に何を生み出したのか? 一九六〇年代、反共親米の政治家・事業家が築いた「西武帝国」とも言うべき沿線に、なぜ続々と団地が建てられたのか。「アメリカ型」の生活が体現されたはずの団地になぜ革新勢力が芽生え、「ソヴィエト化」していったのか――西武が走らせた「特急電車(レッドアロー)」と、団地の時代を象徴する「星形住宅(スターハウス)」が織り成した皮肉な空間を炙り出す力作評論。
速水健朗氏による「新潮文庫版への解説」と、新たな取材をもとに書かれた「新潮選書版あとがき」および「団地育ち」の映画監督・是枝裕和氏との対談を収録した増補新版!

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

戦後の地下水脈、掘り起こす発見

昨年まで大阪の千里ニュータウンに暮らしていた。単身赴任ということもあって、10年暮らしても、その地域コミュニティの一員であるという感覚に浸ることはついになかった。床屋の親父とは昵懇(じっこん)になったが、スーパーマーケットのレジ係やキヨスクの店員さんと立ち話をすることもなく、隣人と接触するのは、ゴミ収集日という、よりによって行政によって設定された機会だけだった。関係を紡ぎだそうと動かなかったら、どんどんじぶんのうちに陥没してしまいそうな、そんな生活だった。

こうした暮らしのなかでなんかヘンだなと思いながら問いつめられなかった二つの通説、それがこの本を読んで氷解した。一つは、団地やニュータウンの生活は、コンクリートの壁とシリンダー錠で私的生活を隔離することによって人びとをしがらみから解き放ったが、それとともに地域コミュニティを修復不可能なまでに崩壊させてしまったという説。いま一つは、スーパーマーケットに象徴されるモダンで快適な消費生活が、アメリカの中間階級の暮らしぶりをモデルに構築されたという説。

これに対し著者が提示するのは逆方向からの視点だ。一つは、室内だけでなく団地という空間の全体を見ること。いま一つは、同型の棟の林立する風景が、アメリカの郊外のそれとはまるで違い、旧社会主義国のそれに酷似していること。こうした視角から、自治会報など膨大な資料をもとに実地調査したのは、大阪の香里団地、東京のひばりが丘団地、多摩平団地、千葉の常盤平団地など、賃貸中心の大型団地である。

初期の団地には、私生活主義とは逆ベクトルの自治活動がしかと芽生えていた。働く女性たちによる保育所開設運動から、都心部への通勤手段である鉄道の運行改善要求、さらには行政・公団・電鉄に対する提案や批判へと展開してゆく地域民主主義の活動である。これらは、町内会や隣組などかつての「上」からつくられた組織とは違い、住民自身による「下」からの運動であった。

そこには沿線の「知識人」たちを核とする無党派の市民運動と、支持基盤を炭鉱労働者から新中間階層へ移そうとしていた革新政党の仕掛ける運動とがあったが、いずれも沿線の立地と深く連動していた。とくに共産党細胞の活動と西武資本による独占的開発とが皮肉にも重なり合う西武沿線についての詳細な記述には、これまで語られてこなかった「戦後思想史の地下水脈」をのぞき見るかのような、いくつかの発見がある。

これらの地域はいま住民の高齢化という「過疎」問題を抱える。その取り組みへの「空間政治学」からの提言を次に聴きたい。

レッドアローとスターハウス :もうひとつの戦後思想史【増補新版】 / 原 武史,
レッドアローとスターハウス :もうひとつの戦後思想史【増補新版】
  • 著者:原 武史,
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(442ページ)
  • 発売日:2019-05-22
  • ISBN-10:4106038439
  • ISBN-13:978-4106038433
内容紹介:
「西武」と「団地」は、東京郊外に何を生み出したのか? 一九六〇年代、反共親米の政治家・事業家が築いた「西武帝国」とも言うべき沿線に、なぜ続々と団地が建てられたのか。「アメリカ型」の生活が体現されたはずの団地になぜ革新勢力が芽生え、「ソヴィエト化」していったのか――西武が走らせた「特急電車(レッドアロー)」と、団地の時代を象徴する「星形住宅(スターハウス)」が織り成した皮肉な空間を炙り出す力作評論。
速水健朗氏による「新潮文庫版への解説」と、新たな取材をもとに書かれた「新潮選書版あとがき」および「団地育ち」の映画監督・是枝裕和氏との対談を収録した増補新版!

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。


【旧版】
レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史 / 原 武史
レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史
  • 著者:原 武史
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(531ページ)
  • 発売日:2015-03-28
  • ISBN-10:4101345813
  • ISBN-13:978-4101345819
内容紹介:
「西武の天皇」と呼ばれた堤康次郎。東京西郊で精力的に鉄道事業を展開し、沿線には百貨店やスーパー、遊園地を建設。公営団地も集まり、「西武帝国」とでも呼ぶべき巨大な文化圏を成した。しかし堤本人の思想と逆行するように、団地は日本共産党の強力な票田となり、コミューン化した「赤い病院」さえ現れた。もうひとつの東京、もうひとつの政治空 間でなにが起きていたのか――。

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団地の空間政治学  / 原 武史
団地の空間政治学
  • 著者:原 武史
  • 出版社:NHK出版
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(296ページ)
  • 発売日:2012-09-26
  • ISBN-10:4140911956
  • ISBN-13:978-4140911952
内容紹介:
高度成長期に燦然と輝いていた団地文化とは何だったのか?香里団地、ひばりケ丘団地、常盤平団地など、東西の大団地をフィールドワークし、埋もれた資史料を調査した著者が、躍動する団地自治の実態と住民の革新的な政治意識を明らかにする。さらに沿線の鉄道からの影響や、建築・設計上の特徴をも考察し、団地をアメリカ的ライフスタイルの典型と捉える従来の史観に再考を迫る。今日の団地の高齢化や孤独死問題が生じた淵源を、コミュニティ志向の衰退と個人主義台頭の歴史に探り、知られざる政治思想史の一断面を描出する画期的論考。

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朝日新聞

朝日新聞 2012年10月28日

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