選評

『昭和天皇』(岩波書店)

  • 2017/07/26
昭和天皇  / 原 武史
昭和天皇
  • 著者:原 武史
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(228ページ)
  • 発売日:2008-01-22
  • ISBN:400431111X
内容紹介:
新嘗祭、神武天皇祭など頻繁に行われる宮中祭祀に熱心に出席、「神」への祈りを重ねた昭和天皇。従来ほとんど直視されなかった聖域での儀礼とその意味に、各種史料によって光を当て、皇族間の確執をも視野に入れつつ、その生涯を描き直す。激動の戦前・戦中から戦後の最晩年まで、天皇は一体なぜ、また何を拝み続けたのか-。

司馬遼太郎賞(第12回)

受賞者=原武史「昭和天皇」/他の選考委員=陳舜臣、ドナルド・キーン、柳田邦男、養老孟司/主催=司馬遼太郎記念財団/発表=「遼」二〇〇九年冬季号

君主制の秘密に肉薄

『昭和天皇』は岩波新書で二二八ページの薄い本です。日曜の朝からていねいに読んでも、夕方には読み終わるハンディなものですが、そのなかに膨大な情報が読みやすく、均整の取れた日本語で書かれている。

内容は、昭和天皇がどうして宮中祭祀に魂を込めるようになったかの経緯です。そして結局は、国民への責任よりも神への責任を取ろうとしたという重要なテーマが流れている。国民に対して遂に責任を背負うことがなかったという痛烈な天皇批判が、史料から抽出された客観的な記述として、読む人が納得できる論理的な積み重ねで書かれています。

もうひとつ、昭和天皇のお母さんである貞明皇太后と天皇の関係、昭和天皇の弟、高松宮と天皇との関係が、史料を駆使して明快に書かれている。私たちは主権在民の立憲君主国という国のかたちを採用していますが、その君主制の秘密に肉薄し明確にしたという点で、後々まで基本的な第一級史料になるでしょう。

また宮中祭祀というものが実は昔からの伝統ではなく明治になってからつくられた伝統で、それを日本の国の根本義と考えることの間違いが冷静に摘出されている。どこを取っても議論に値し、またどのページにも目から鱗が落ちる指摘があります。

この本は読み手や読み方によって、さまざまな受け取り方ができる。僕が個人的に感じたのは、昭和の日本人はひょっとしたら天皇一家の親子ゲンカに巻き込まれたのかもしれないという恐ろしい感想でした。この本は事実を精選して論理的に組みあげた結果、中立でありながら、また原さんはそうは言ってないにもかかわらず、どんな立場からも聖書にしたくなるようなすごいところのある本です。

それらがとてもいい日本語で書かれていて、文章を読む快感もあります。司馬先生が生きておられたら、この本を材料に一週間ぐらいお話をつづけられたに違いない。

これは国民全員に読んでほしい。天皇一家はこういう一家で、こういうことを信じて象徴となっているんだと考えてほしい。それにふさわしい一冊を、私たちは手にしました。

【この選評が収録されている書籍】
井上ひさし全選評 / 井上 ひさし
井上ひさし全選評
  • 著者:井上 ひさし
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(821ページ)
  • ISBN:4560080380
内容紹介:
2009年までの36年間、延べ370余にわたる選考会に出席。白熱の全選評が浮き彫りにする、文学・演劇の新たな成果。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

昭和天皇  / 原 武史
昭和天皇
  • 著者:原 武史
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(228ページ)
  • 発売日:2008-01-22
  • ISBN:400431111X
内容紹介:
新嘗祭、神武天皇祭など頻繁に行われる宮中祭祀に熱心に出席、「神」への祈りを重ねた昭和天皇。従来ほとんど直視されなかった聖域での儀礼とその意味に、各種史料によって光を当て、皇族間の確執をも視野に入れつつ、その生涯を描き直す。激動の戦前・戦中から戦後の最晩年まで、天皇は一体なぜ、また何を拝み続けたのか-。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

遼

遼 2009年冬

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