選評
『評伝 北一輝 I - 若き北一輝』(中央公論新社)
司馬遼太郎賞(第8回)
受賞者=松本健一/他の選考委員=陳舜臣、ドナルド・キーン、柳田邦男、青木彰/主催=司馬遼太郎記念財団/発表=「遼」二〇〇五年冬季号怪人物の謎が解けた
北一輝という人物は、私にはどうにも正体のつかめない怪人物であり、昭和史最大の謎でした。ところが『評伝 北一輝』を、その冷静で平明な文章に導かれて読み進むうちに、謎がきれいに解けると同時に、北一輝という人物がはっきりと目の前に立ち現れてきました。極端な国家主義と社会主義とが一緒になると、最後は天皇さえ使うという革命理論が誕生するわけですが、その思想性と人間性が自分なりに理解できて、長年のしこりが解けたような気がします。彼に影響を受けた青年将校が一種の革命を断行したときの、軍上層部の阿呆さ加減と無責任さもよくわかったし、司馬先生が書かれた「鬼胎の時代」の生まれていく経過もよくわかりました。
ひとりの文筆家、思想家が生涯をかけ、精魂を込めたお仕事だという感動も伝わってきました。
作品賞であり業績賞であるという司馬賞の広さを一つの作品がカバーしてしまった、見事な結果になりました。
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