書評

『原寸復刻「浪花百景」集成: One Hundred Views of Naniwa』(創元社)

  • 2021/08/16
原寸復刻「浪花百景」集成: One Hundred Views of Naniwa / 橋爪 節也
原寸復刻「浪花百景」集成: One Hundred Views of Naniwa
  • 著者:橋爪 節也
  • 出版社:創元社
  • 装丁:大型本(192ページ)
  • 発売日:2020-11-27
  • ISBN-10:4422710206
  • ISBN-13:978-4422710204
内容紹介:
『浪花百景』は幕末に成立した名所錦絵の代表作。状態が最良の完本を原寸復刻し、高精細で印刷再現した本邦初の画集となる。

時代の転換点を迎えた幕末の大坂を描く労作

大坂の歌川派絵師3人の合作である中判錦絵、「浪花百景」を原寸大で鮮やかに復刻したのが本書である。「浪花百景」は江戸時代の大坂の景観を活写していて、「摂津名所図会(ずえ)」とともにもっとも人口に膾炙した作品である。「摂津名所図会」の方は図と解説文で構成されていて、挿絵入りの読み物ということもできるのだが、「浪花百景」はヴィジュアルのみ。絵師には視覚に直接アピールして物語を想起させる画力が要求されるが、歌川国員(くにかず)(生没年不詳)、南粋亭芳雪(なんすいてい・よしゆき)(天保6~明治12年)、里の家芳瀧(さとのや・よしたき)(天保12~明治32年)の3人は、腕を競い合い、この苛酷ともいえる求めにみごとに応えている。

製作年代は幕末。この時期の大坂は、江戸幕府倒壊・明治政府樹立という時代の転換のまさに真ん中に位置する町だった。「三大橋」(第五二景)には大砲を引く武士の行列が描かれるが、長州征伐への出陣図との解釈がある。また「玉江橋景」(第六〇景)は町人を脇に控えさせる勇ましい隊列をフォーカスしているが、鳥羽伏見の戦いの後に新政府により編成され、大阪府警の源流となった「浪花隊」とする見解がある。日常の生活と時代の急変と。二つの要素が含み込まれている。

「日本の歴史は西高東低」と私は強調しているが、政治・経済の中心は古代から近畿地方であった。流れに乗らずに徳川家康は江戸に幕府を開いたが、その確固たる理由を私は見つけられない。むしろ必然性などなく、彼の独自の判断と解すべきか、との思いが強まっている。家康がごく普通に上方に政権を構築していたら、現在の首都は東京でなく大阪である可能性が高い。この意味からも、時代の転換点を迎えた大坂のありようを眺めるのは、実に興味深い。
原寸復刻「浪花百景」集成: One Hundred Views of Naniwa / 橋爪 節也
原寸復刻「浪花百景」集成: One Hundred Views of Naniwa
  • 著者:橋爪 節也
  • 出版社:創元社
  • 装丁:大型本(192ページ)
  • 発売日:2020-11-27
  • ISBN-10:4422710206
  • ISBN-13:978-4422710204
内容紹介:
『浪花百景』は幕末に成立した名所錦絵の代表作。状態が最良の完本を原寸復刻し、高精細で印刷再現した本邦初の画集となる。

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