「釣り」を描いた浮世絵ばかりが百枚集められた、画集+エッセイ集である。
浮世絵を、さまざまに編集した本は沢山(たくさん)出ているし、北斎や春信、歌麿や写楽というようなビッグネームが、そんな本にはたいがい載っている。
しかし、この画集には、国芳や広重、芳年や清親はあっても、そのほとんどが、初めて見る絵ばかりだ。
著者の金森直治さんは、釣り人で俳人、釣り史研究の資料蒐集(しゅうしゅう)をするうち、「釣りに関する浮世絵」を蒐集した。大概の画面に釣り竿(ざお)が描かれている。
販売目録で浮世絵を購入するときは、小さな写真をルーペで拡大して釣り竿を見つけると注文したそうだ。
一枚一枚の浮世絵の面白さ、もあるけれども、これらの絵のすべてが、釣り好きの金森さんによって蒐(あつ)められた、というのがこの本の味わいである。
一点ずつにつけられたエッセイは、浮世絵の作者や制作年代のみならず、釣り人ならではの視線で「絵」が読まれ、評価されるところがまた面白い。
たとえば、図版の二代・歌川豊国のこの絵は「継ぎ竿」を正確に描いているけれども、背景に磯が描かれて、海の釣りのように見えて、エビがテナガエビというのはどうしたことか? 川釣りなのか、河口か?――それとも絵師が釣りに詳しくなかったのか? という具合。
文末に添えられた俳句も含めて、この本全体に流れているのは、趣味の楽しさ、趣味の豊かさである。この画集を繰る面白さの由(よ)って来るところだろう。