回顧のふりの雑誌論、職人びいき貫き好感
辛口コラムニスト山本夏彦の本業はインテリア雑誌の主宰者である。「木工界」から「室内」を創刊して四十年、その明け暮れを回顧した。いや回顧するふりをして独自の広告論、株式会社論、当今の建築批評のおそまつまで縦横に語る。恐(こわ)いものなしのお年とはいえ、こんなに書いていいのかしら。『命長ければ恥多しという。悪かったな(笑)』新入りの女子社員を前に話すというしかけが効いている。白木屋をしらきやと読み、ショウギ隊を将棋隊と書く世代相手に大変でしたね。『なれっこです。四十年忍びがたきを忍び、堪えがたきを堪えてきました』
彼女たちが隅におけない。博引旁証に、「山本さん、話が進まないんですけど」と半畳を入れる。露伴の「五重塔」は読んでないが、川越の源太がのっそり十兵衛に話を付けにいくのを「談合ですね」と喝破する。
出版界の荒波を「いかさまの才」で乗り切る術、私にも教えて下さい。
『この世はすべて締め切りです』
『発行日を守らない雑誌はどうでもいい雑誌なんです』
『小さい会社でベストセラー一点出したところはみんな潰れてます』
『編集者っていうのはほめてほめちぎって、そしていけなくなったらポイと捨てるものなんですよ』
なるほど……。朝日新聞の悪口もいう山本さんの本を取り上げて、びっくりなさいましたか。『ただし書評が出たからといって売れるわけではない』
「工作社」「木工界」「室内」、山本夏彦のネーミングは、片仮名嫌いのへそ曲がりのように見えて、じつはすっきりしたモダニズムの香りがあり、格物致知、実物と実質を尊ぶリアリズムがある。
女に参政権はいらない、なんていうから保守反動の人と思ってましたが、社内の雰囲気は案外「民主的」のようです。職人びいきというのが気に入りました。『本誌は手に道具を持つ人、額に汗する人の味方だって書いている。インテリは口舌の徒です。口と舌と書いて口舌、くぜつじゃないよ。ありゃ別もの』
「室内」がいかに独自に執筆者を発掘し、育ててきたか。稲葉眞吾、河原晉也、浜口隆一、斎藤隆介らを思い返し悼むくだりはサラッとやって胸に迫る。