書評
『ONCE UPON A TIME』(本の雑誌社)
写真による「ものがたり」を作りたかったのだ、と椎名誠さんは、まえがきに書いている。
一枚ずつの写真にはそれぞれの「ものがたり」があり、それらを組み合わせることでまた違った新たな「ものがたり」が生まれてくるのではないか、という意図をこめて編集した、と。
「ものがたり」のような文章が写真に添えられているのかというと、そうではない。
世界中のいろいろな所を旅行した椎名さんが、あちこちで撮ってきた写真が、組み合わされただけなのに、たしかに「ものがたり」がはじまってくる。
雪原をいっしんに走る犬がいる。小舟で川を行く少年がいる。土砂降りの雨の中を必死に傘をさして歩いている人がいる。
いつも笑っているような犬がわらいながら通りすぎる。きれいなレンズ雲が浮かんでいて、夜の雪景色に暖かい部屋の窓が二つ見える。
モンゴルの少女がうたうように踊るようにかろやかに馬を走らせている。
なつかしいような、せつないような「ものがたり」だ。
騎兵隊を岩山の上から眺めているアパッチ族のような犬。親子で家路につく三人。
モノクロの美しい階調が、ずっと昔、誰だか知らない人の撮った写真のようだ。
この写真集は、きっと何度も何度も繰り返してページを繰られる本になるだろう。そのたびに少しずつ「ものがたり」は作られて、その「ものがたり」の作り手である読者を、なぐさめる本になるだろう。
一枚ずつの写真にはそれぞれの「ものがたり」があり、それらを組み合わせることでまた違った新たな「ものがたり」が生まれてくるのではないか、という意図をこめて編集した、と。
「ものがたり」のような文章が写真に添えられているのかというと、そうではない。
世界中のいろいろな所を旅行した椎名さんが、あちこちで撮ってきた写真が、組み合わされただけなのに、たしかに「ものがたり」がはじまってくる。
雪原をいっしんに走る犬がいる。小舟で川を行く少年がいる。土砂降りの雨の中を必死に傘をさして歩いている人がいる。
いつも笑っているような犬がわらいながら通りすぎる。きれいなレンズ雲が浮かんでいて、夜の雪景色に暖かい部屋の窓が二つ見える。
モンゴルの少女がうたうように踊るようにかろやかに馬を走らせている。
なつかしいような、せつないような「ものがたり」だ。
騎兵隊を岩山の上から眺めているアパッチ族のような犬。親子で家路につく三人。
モノクロの美しい階調が、ずっと昔、誰だか知らない人の撮った写真のようだ。
この写真集は、きっと何度も何度も繰り返してページを繰られる本になるだろう。そのたびに少しずつ「ものがたり」は作られて、その「ものがたり」の作り手である読者を、なぐさめる本になるだろう。
朝日新聞 2006年11月26日
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