書評
『アド・バード』(集英社)
アンドロイドの哀しみ
きのう紹介した星新一「ボッコちゃん」の主役ロボットのように、プログラムされた動作をくりかえす接客アンドロイド(人間型ロボット)は、どこか哀(かな)しみを湛(たた)えている。たとえば、片瀬二郎のSF短編集『サムライ・ポテト』(河出書房新社)表題作に登場する、ハンバーガー・チェーンの宣伝キャラクターをかたどった案内用アンドロイド。芽生えるはずのない自意識が芽生えてしまったとき、切ないドラマがはじまる。椎名誠の日本SF大賞受賞作『アド・バード』(1990年、集英社文庫)に出てくるハルオは、廃墟と化した百貨店のサービスロボット。来るはずのない客を待つうちに故障してしまい、にこやかな笑みを浮かべたまま、やわらかな口調で意味不明の言葉をしゃべりつづける。「お菓子をやくときは窓をあけますね。頭を下げてずっとまいります。お送りするまで思いのままです。どうですか。それはおしあわせなことです」などなど。
物語の背景は、二大勢力の広告合戦がはてしなくエスカレートし、文明が崩壊した未来。マサルと菊丸の兄弟は、行方不明の父を捜して、マザーK市へと冒険の旅に出る。
その道中でふたりが遭遇する奇怪な遺伝子改変生物の描写がすばらしい。巨大な絨毯(じゅうたん)のごとく大地を疾走する地ばしり、すべてを食いつくし果てしなく増殖するヒゾ虫、配下の小鳥や虫たちを使い壮絶な死闘をくりひろげる戦闘樹、カーテンを開けて泊まり客に外の広告を見せるためだけに命を捨てる虫……。
インドカネタタキ、ターターさん、赤舌など、ネーミングもいちいち魅力的だ。
この小説には、ハルオ以外にも、さまざまな機械人間が登場する。壊されたボディをおちゃらけロボットの胴体と交換したため関西弁になってしまったキンジョー。いきなりすっ転んで、「たおれるのでたおれたのは足の下にこまるきけんがあったからです。きけんはこまるのでおこりなさい。命令しておこりなさい」と文句を言う低級加工人間C4。彼ら個性的なアンドロイドたちが、変貌した未来世界のガイドをつとめてくれる。
西日本新聞 2015年7月1日
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