内容紹介

『中世イングランドの日常生活: 生活必需品から食事、医療、仕事、治安まで』(原書房)

  • 2022/12/12
中世イングランドの日常生活: 生活必需品から食事、医療、仕事、治安まで / トニ・マウント
中世イングランドの日常生活: 生活必需品から食事、医療、仕事、治安まで
  • 著者:トニ・マウント
  • 翻訳:龍 和子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(264ページ)
  • 発売日:2022-10-15
  • ISBN-10:4562072210
  • ISBN-13:978-4562072217
内容紹介:
中世イングランドで生きるために、食事は? 仕事、服装は? 一日の生活すべてをわかりやすく一冊に。君塚直隆氏推薦!
もしも中世イングランドにタイムスリップしたらどうしよう? 仕事を見つけて給金をもらい、食材を買って部屋に戻り、眠る。ただし毎週の礼拝をわすれてはならない。それから時には兵士になるから、じゅうぶんに気をつけて!
中世イングランドの食事、お金の稼ぎ方、服装など生活のすべてを、中世史の専門家である著者が解説した書籍『中世イングランドの日常生活』より、第1章を抜粋して公開します。

ミッション! 無事に目的地にたどり着け!

イングランドの風景の変化はおいておくとして、現代から中世イングランドへと到着したら、移動手段や道路事情についても考慮する必要がある。中世全般において道路事情はよくない。大きな町や市をむすぶ直通の、それも最良のルートでもローマ帝国時代の街道で荒れている場合が多く、敷設されてから1000年前後を経ているものだ。

ジェフリー・チョーサーの著書『カンタベリー物語』で巡礼者たちがロンドンからカンタベリーへと歩いたルートの多くは、ローマ帝国時代のウォトリング街道(1世紀半ばから5世紀半ばまで、イングランドがローマ帝国領だった時代にローマ人が建設した4大道のひとつ)をたどるものだった。ロンドンからグレート・ノース・ロード沿いにあるリンカンを経由してヨークへと向かうつもりなら、アーミン街道(これもローマ人が建設した4大道のひとつ)を行軍したローマ帝国の軍団とほぼ同じルートを利用することになる。この道は穴やくぼみがあったりところどころ陥没していたり、あるいはぬかるみになっていたりするが、人も荷車も馬も通行量はとても多いので、道に迷うことはないはずだ。しかし標識やわかりやすい地図は置かれていないので、あまり知られていない村に行くような場合は、案内してもらったり道を尋ねたりすることも必要になる。しかし気をつけること。地元の人々はよそ者を信用しないことが多く、正しい情報を教えてはくれない可能性もある。

どこへ旅するにしても――チョーサーの巡礼者たちもそうだったように――道連れがいるのが一番安心だ。山賊や泥棒、ごろつきに襲われる危険が常にあるからだ。道の両側は数百メートルにわたって木々ややぶを切り払っておくべしと法律で定められており、これは悪人が不用心な旅人を待ち伏せして不意打ちすることができないようにするためのものだ。しかしその作業には多大な時間と労力を必要とするため、この法律が守られていることはめったにない。旅をする際には、太くしっかりとした杖が欲しくなることもあるだろう。これがあれば歩くのが楽になるだけでなく、緊急時にも役に立つ。たとえばこの杖を使って水たまりを飛び越えられるし、小川を渡るときにはこれで深さを測ることができる。また不運にも追いはぎにあったときには武器にもなる。

癒しの時間、睡眠と食事……のはずが!?

1日の終わりには、食事を摂り眠る場が欲しくなるものだ。修道院や小修道院があれば、修道士や修道女が一夜のベッドと食事を提供してくれることになっている(ボード[board]とは、架台にかけてテーブルとして使用する板[board]を意味し、つまりは食事を出してもらうということだ)。原則としてそこでの宿泊は無料だが、実際には、その修道院や小修道院のための寄付や心づけを出すことになる。とくに帰路でもそこに泊めてもらうつもりなら、そうしたほうがよい。金を置いていったかどうか、修道士や修道女たちはしつこく覚えているものだ。

手持ちの金が少なければ、心づけの代わりに日常の仕事を引き受けることもある。牛小屋の掃除や牧草地で干し草用の草刈りをする、それに洗濯の手伝いなどだ。本当に無料で宿泊を提供してもらえるのは、司祭や托鉢修道士、巡回説教者など神とともにある仕事をする者、あるいは一般人なら巡礼中の人のみなのだ。

それから忠告しておくべきことがある。宿泊施設では、まったく知らない相手(それも、ひとりではなくふたりの場合も)とひとつのベッドを共有しなければならないかもしれない。それからノミやトコジラミ、シラミその他もいるはずだ。食事も口に合わないかもしれない。街道沿いのそれなりの宿に泊まるにしてもそれは同じだ。だから助言しておくが、ラベンダー水を携行して防虫剤にするとよい。中世の人々は知らないが、私たちはノミがペストを媒介することを知っている。だから私が思うにこの時代に防虫剤は必須で、これが命を守ってくれるだろう。

害虫のことは気にならなくとも、中世の人々も出てくる食事については気にかかる。だから、携帯用の小瓶をもって行くのが当たり前とされている。これは「ビネグレット」と呼ばれる容器で、ビネガーやマスタードシードや塩、数種のハーブ、ニンニクやコショウやオリーブ・オイル(こうしたぜいたく品を手に入れる余裕があればだが)など、好みの調味料を混ぜて入れておくものだ。

つまりは、混合調味料を使って出された食べ物の風味をよくする――あるいはごまかす――のだ。ビネガーやニンニク、それにセージなどのハーブ類には防腐剤や抗生剤としての性質があるため、ビネグレットは、衛生面で不十分な食べ物についたバクテリアとも闘ってくれるというわけだ。この時代にはバクテリアに関する知識などだれももってはいないが、一部の食材に実際に薬効成分があることはみなちゃんと理解している。

[書き手]トニ・マウント(Toni Mount)
歴史家、作家。イギリス、オープン大学で文学士、ケント大学で中世医学の研究修士を取得。大学における研究や、個人による調査・研究は30年におよび、これをもとに、中世におけるごく普通の人々の生活を紹介している。“Everyday Life in Medieval London”(2014)、“A Year in the Life of Medieval England”(2016)など著書多数。
中世イングランドの日常生活: 生活必需品から食事、医療、仕事、治安まで / トニ・マウント
中世イングランドの日常生活: 生活必需品から食事、医療、仕事、治安まで
  • 著者:トニ・マウント
  • 翻訳:龍 和子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(264ページ)
  • 発売日:2022-10-15
  • ISBN-10:4562072210
  • ISBN-13:978-4562072217
内容紹介:
中世イングランドで生きるために、食事は? 仕事、服装は? 一日の生活すべてをわかりやすく一冊に。君塚直隆氏推薦!

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
原書房の書評/解説/選評
ページトップへ