前書き

『道化師政治家の時代:トランプ、ジョンソンを生み出したアルゴリズム戦略』(原書房)

  • 2023/05/02
道化師政治家の時代:トランプ、ジョンソンを生み出したアルゴリズム戦略 / クリスチャン・サルモン
道化師政治家の時代:トランプ、ジョンソンを生み出したアルゴリズム戦略
  • 著者:クリスチャン・サルモン
  • 翻訳:ダコスタ吉村花子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(210ページ)
  • 発売日:2023-03-22
  • ISBN-10:4562072695
  • ISBN-13:978-4562072699
内容紹介:
パンデミックの時代、カーニバル化する政治状況下で、IT技術を駆使したポピュリズムで台頭した支配者たちを分析する。
トランプ、ジョンソン、ボルソナロ、サルヴィーニ……パンデミックの時代、カーニバル化する政治状況下で、IT技術を駆使して大衆の中にある陰謀論思考や差別感情、被害者意識を掘り起こし台頭した支配者たちを分析した書籍『道化師政治家の時代』より、はじめにを公開します。

不可欠な道化師

コロナ(Covid-19)は地球規模で展開する暴政の新しい形を明らかにして見せた。先陣を切ったのはドナルド・トランプだが、ここ4年、世界各地で同様の動きが加速している。ブラジルのジャイール・ボルソナロ、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ、英国のボリス・ジョンソン、イタリアのマッテオ・サルヴィーニとベッペ・グリッロ、グアテマラのジミー・モラレス、トルコのレジェップ・エルドアン、インドのナレンドラ・モディ、ハンガリーのオルバーン・ヴィクトル、「道化師(クラウン)」を自称するウクライナの新大統領ウォロディミル・ゼレンスキーに目を向ければわかるだろう。

コロナというパンデミックはこうした極端な権力を抑えるどころか、それら権力のグロテスクな劇場であった。私たちは、深刻な公衆衛生危機に見舞われた国家元首たちが、先を争うように無能と不合理に走るのを目にしてきた。愚行はとどまるところを知らず、魔術や宗教的感情といったきわめて原始的な形の強硬姿勢を取った。いわば道化と挑発の祝祭だ。だが目も当てられない危機管理にもかかわらず、これら政府の信頼度は揺るがなかった。逆に支持基盤が強化され、何よりも、自分たちはいかなる政治的、科学的、倫理的判断にも左右されず、無条件に意思を通せることが証明されたと考え、自分たちは罪に問われないという一種の免責を誇示した。

拒絶というパンデミック

ドナルド・トランプは2020年4月23日の記者会見で、ウィルスは春になれば消えるだろう、消毒液を注射すればコロナに対抗できるだろう、と述べた。多くの医師の面前で、「消毒液は1分でウィルスを死滅させる。これを体内に注入する方法があるのではないか」と断言したのだ。2020年7月3日の時点で、アメリカ合衆国の感染者数は273万9879人、死者数は12万9891人。これは世界的に見ても記録的な数字だ。

英国のボリス・ジョンソンはロックダウンに対抗して、「パブに行くという絶対に譲ることのできない英国人の権利」に言及し、彼のメインアドバイザー、ドミニク・カミングズは「集団免疫を獲得しよう。それで幾人かの年金生活者が死んでも仕方がない」と述べて、集団免疫という選択を正当化した。8月30日、英国の感染状況はイタリアを抜き、感染者数28万5268人、死者数4万4220人を数えた。ブラジル大統領ジャイール・ボルソナロは、感染者数が激増する中、「死者が出るかもしれない? それは当然だ。気の毒だが、それが人生というものだ。毎年自動車事故で死亡する人がいるからといって、自動車工場を止めるわけにはいかないだろう」と語り、その1週間後にも、深刻になる一方の感染状況を心配する記者に対し、「だから何なのだ。気の毒だが、私にどうしろというのだ。私はメシアス(「救世主(メシア)」を意味する彼のミドルネーム)だが、奇跡は起こせないぞ」と答えて、ジェットスキーを楽しむためブラジリアの湖に向かった。感染がピークに達しても、彼は支持者たちに集会を呼びかけ、外出を繰り返し、ソーシャルディスタンスを無視して大衆と接触した。2億1200万人の人口を擁するブラジルのコロナ死者数は、アメリカに次いで第2位となり、ボルソナロ自身も、2020年7月初頭に感染したと発表した。

インドの首相ナレンドラ・モディは、「Covid-19の闇」から抜けるのに、数字の9の魔力に頼った。彼はロックダウン9日目の朝9時にフェイスブックに9分間のメッセージを投稿し、4月5日(4+5)9時にすべての照明を消して、9分間ろうそくをともすよう呼びかけた。彼の支持者たちはベランダや通りに出て、「コロナよ、去れ!」「母なる祖国インド万歳!」と叫ぶ一方、密告を恐れて電気を消す者もいた。2か月後、モディは今度はヨガに頼った。6月21日の国際ヨガデーの数日前に投稿された動画で、彼はコロナウィルスに対する免疫、「防御盾」の獲得にヨガが役立つと述べた。インディラ・ガンディーの孫で下院議員を務めるラーフル・ガンディーは、真っ向から警告を発し、「とぼけるのもいい加減にせよ。インドは非常事態にある」と非難した。8月30日、感染者数は361万9169人(死者数6万4617人)に上り、インドは統計上世界第3位のコロナ感染国となった。

メキシコ大統領アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)もロックダウンを拒絶し、お守りを振りかざしてコロナ対策とした。3月18日、彼は毎朝9時に開かれる記者会見で、「防御盾」であるキリストの心臓の小さな絵を取り出して見せ、翌日にも支持者の一人から贈られた魔除け代わりの六葉のクローバーを掲げた。その後、メキシコもコロナ最悪7か国に仲間入りした。

ベラルーシ大統領アレクサンドル・ルカシェンコが2020年8月に再選を果たしたときは、非難の声が上がり、通りではデモが繰り広げられた。彼は国民に、ウォッカを飲み、仕事に打ち込んでウィルスに対抗せよと呼びかけた。「トラクターはどんなウィルスにも効くし、畑はすべての人を治すだろう」と。そして国内各地で「スボートニク」を開催すると発表した。これは市民に無償で土曜日に働くよう促す、共産党時代にさかのぼる慣習だ。アイスホッケー大会の開幕試合では、「ここはスケートリンクですべては凍っている。健康でいたいならここに勝る場所はない。これこそ最高のスポーツだ。ウィルスをも凍らせる寒さは、最高の特効薬だ。ウォッカを飲み、サウナに行き、勤労せよ」と説き、「屈辱に甘んじて生きるよりも、堂々と死ぬ方がましだ」と言い放った。

トルクメニスタンの独裁者グルバングル・ベルディムハメドフは、保健・医療産業相、さらに2001年には保健・教育・科学担当閣議副議長を務めた人物だが、ペガヌム・ハルマラ(Peganum harmala)〔ニトラリア科〕を使った大々的な燻蒸消毒を国中に命じた。これは血を清め、関節の疾病やうつ病に効くとされる薬草である。

元コメディアンのウクライナ大統領ウォロディミル・ゼレンスキーは「コロナウィルスに感染したかった」と語っている。曰く、「(スタッフたちと)集まったときに、『さあ、私は病気にかかることにしよう。そうしたら、すぐに隔離されるだろうから、寝て、普通に生活する。そうすれば人々も納得するだろうし、落ち込むこともないだろう。これはペストではないのだ』と言ったんだ。そうしなかったたった1つの理由は、誰かから、そんなことをしたら宣伝行為だと言われるだろう、と指摘されたからだ」「もちろん、そんなことをしていたら、家族からカンカンに怒られただろうし、頭がどうかしたと思われただろう。(中略)実際そうなのだからね」

かつて革命家だったニカラグア大統領ダニエル・オルテガは、コロナは軍国主義とアメリカ主導に怒る「神の合図」だと述べた。3月、彼は妻であり副大統領でもあるロサリオ・ムリージョと共に、首都マナグアで「Covid-19の時代の愛」と銘打ったカーニバルのような行進を開催した。コロンビアの作家ガブリエル・ガルシア=マルケスの有名な小説『コレラの時代の愛』をもじった名称の行進は、参加者たちに「平和と愛に敗北する」パンデミックを笑い飛ばせ、と促した。

こうした新世代のリーダーたちはえてして「ポピュリスト」と呼ばれるが、これは19世紀末ロシアの社会運動家ナロードニキからかつてのアルゼンチン大統領フアン・ペロンやブラジル大統領ジェトゥリオ・ヴァルガスなどラテンアメリカの大物リーダーまでの、すでにかなり広範にわたる歴史・政治概念の特殊な性格を奪ってしまいかねない。彼らのイデオロギーの間には大きな開きがあり、ボルソナロやサルヴィーニのようにファシストと見なされる者もいれば、ボリス・ジョンソンやオルバーン・ヴィクトルのように権威主義的リベラリズム〔経済の分野ではリベラリズム、個人の自由の分野では権威主義的体制〕や外国人嫌いの混じった国粋主義(ナショナリズム)思考の者もいる。オルバーン・ヴィクトルは「非(イ)リベラル」を自称しているが、この造語は中欧(ポーランドあるいはスロヴァキア)の複数の体制や、インドのナレンドラ・モディ、トルコのレジェップ・エルドアンにも当てはまる。

不信のスパイラル

ポピュリスト、非リベラル、国粋主義者(ナショナリスト)、主権至上主義〔国をまたいだ国際的主権よりも一国の主権を至上とする主義〕の信奉者、ファシスト……。新リーダーたちのイデオロギーは様々だが、それゆえ、共通の実体に落とし込むことのできないものと定義できるだろう。彼らはその性質からして既存の政治カテゴリーやイデオロギーの枠から外れている。というのも、彼らは政界、政党、政治関係者、政治の作法、さらには指導者のカリスマ性の在り方をも標的とする不信を体現しているからである。彼らは「グロテスク」としか言いようがない。

本書での「グロテスク」という形容詞は、侮辱や罵詈雑言などの攻撃的な意味合いではなく、一義的にとらえるべきものである。ロシアの言語学者ミハイル・バフチンによれば、「グロテスカ」とはもともと、15世紀末にローマのティトゥス帝の浴場を発掘していた際に見つかった装飾画を意味していた。皇帝ネロにより建設され、奇妙なモチーフで埋め尽くされたドムス・アウレア(黄金宮殿)の装飾を指していたという説もある。こうした中世の知られざる図像は、植物、動物、人間の姿形の混在を特徴としており、洞窟(グロット)で発見された絵画の様式が「グロテスカ」と呼ばれるようになり、さらに境界を越えたあらゆるジャンルが混ざったものを意味するようになった。16世紀フランスの哲学者モンテーニュは自著『エセー』の多様性に富んだ構成を「グロテスク」と呼び、グロテスクはのちにラブレーの作品をはじめとする喜劇の特色となり、やがて意味が拡大して、滑稽で風変わりで常軌を逸した事物を指すときに使われる言葉となった。

政治のしきたりを超えて制度の在り方や慣習を覆し、イデオロギー上のつながりを軽視し、指図を受けず、政治権力を敷くのではなくこれを覆そうとする怪しげな力頼みという意味では、ドナルド・トランプとその一派は「グロテスク」だと言える。トランプと彼の追随者は、この広範な不信を政界で体現する人物だ。逆説的だが、グロテスクな権力の正当性はあらゆるところで、政治家とその方針によってもたらされる信用、あるいは選挙で認められた信用ではなく、政治システムを標的とする不信の上に成り立っている。そのため分裂した性質を備えており、「確立された」グロテスクな権力という形で現れる。

筆者は前書『クラッシュの時代』で、不信のスパイラルについて分析を試みた。不信のスパイラルはメディアを通じて拡散し、政治、科学、宗教制度のあらゆる「権威ある」言説の正当性を否定する。2008年の金融危機は人間の具体的経験の公の物語を後退させ、政治の媒介物(メディア、政党、議会)の崩壊を招いた。このスパイラルはあらゆるソーシャルネットワークで反響を呼び、その「様式」、法則、規則が成立し、「不信のサブカルチャー」とも言うべきものが生まれた。世界的パンデミックに直面しながらグロテスクなまでに拒絶して悦に入る政府の姿勢は、リアリティ番組や、グーグル、フェイスブック、YouTube、ツイッターといったプラットフォームからなるメディア的サブカルチャーと分かちがたく結びついている。

雑誌ジ・アトランティックの論説委員ヴァン・R・ニューカークは、「140文字で綴るアメリカの思考」と題した記事の中で、インターネットが促した民主化という通説に疑問を呈した。記事はティーパーティー、オルタナ右翼といったばらばらに展開される反エスタブリッシュメント〔既存の社会体制や権威に異議を唱える姿勢〕運動がどのようにツイッター上で発展を遂げたかを説明している。彼らはツイッターで何百万人もの人を集めるイベントを次々と計画したり、公的人物に真っ向から挑戦したりすることができると胸を張る。ソーシャルネットワークは社会全体に広がるこの不信の受け皿となった。トランプや彼と同類の人物たちはこれを徹底的に利用しているのだ。

トランプは民主制度に挑んだが、その目的は改革や変化ではなく、これを嘲笑することであり、政治に関すること、その硬直した言辞、従来の政党、在り方、習慣への不信を煽ろうとした。奢侈のがらくたを代表するトランプは、卑俗、スカトロジー、嘲弄の中で勝利を収めた。彼は一種の理想像であり、知名度という上塗りを施した荒くれ者を体現している。2016年の大統領選で、アメリカの複数の町の広場に反対者らにより設置された裸のトランプ像はこの点を公に表しており、悪趣味(キッチュ)な神聖さ、荒廃した彫像の一形態をたたえていた。この像は、グロテスクな権力の自発的な表現なのだ。

2016年の大統領選でトランプの参謀を務めたスティーヴ・バノンは、このグロテスクの出現について語っている。彼はニューヨーク・マガジン誌の長時間インタビューの中で、ヒラリー・クリントンが、トランプやバノンを取り巻くナチス崩れや白人至上主義者の勢力を指して、トランプの支持者たちを「嘆かわしい」と断じた瞬間が選挙戦の転換点だったと回想している。バノンは抗議するどころか、「望むところだ。我々は『嘆かわしい輩』、バノン一派だ」と、巧みにこの侮辱を逆手に取った。「嘆かわしい」という語はトランプ支持者の符号となった。「『嘆かわしい』ということはすなわち、してやられたということだ。我々バノン一派はいまいましい頑固者の寄せ集めに過ぎない。ブルーカラー労働者、消防士等々、平凡で、ドナルド・トランプを愛する輩だ。なぜかって? トランプは既成権威(エスタブリッシュメント)にくたばれと言い放った初めての人物だからさ」

ドナルド・トランプ――不可欠な道化師

ドイツの哲学者で社会学者のゲオルク・ジンメルは第一次世界大戦前に、「大衆を建設的な思考や批判的意思に導こうとしても無駄だ。彼らはそんなものを持ち合わせていないのだから。彼らは未分化の力、拒絶という力しか持たず、自分たちが排除し、否定するものだけを支えにしている」と考察した。2008年の〔金融〕危機以降ほど、こうした見立てが真実をついていたときはない。

2016年の大統領選で、ドナルド・トランプはツイッターやフェイスブックを通じて、アメリカから分離した社会のこの部分に語りかけ、あちこちの不満を1つの熱狂の塊にまとめ上げた。このときに彼が活用したのが、逸脱や誇張といったリアリティ番組の手法だ。というのもこの手法だけで、生(せい)のむなしさを原動力とする表象欲求を満足させられるからだ。トランプは臨床心理学方面ではよく知られるこの表象欲求をとらえ、政治資本とした。それまで娯楽に過ぎなかったリアリティ番組を、人心掌握と権力行使の一手段に変えた。

彼は自身の支持者層の核をなす没落した白人たちに対し、象徴的な反撃の手段を与えた。すなわち、ますます多文化になっていく社会の中で、マイノリティの台頭に伴い冷遇される白人たちの優位性の回復である。いわば、信頼を失った者たちに信頼を取り戻させたのだ。トランプとはあらゆる怒りの中央銀行である。彼は怒りを集中させ、蓄積し、造幣し、恨みの表象という貨幣を発行する。この貨幣は裏付けとなる保証を持たず、信頼ではなく不信を基礎としていながら、実際の貨幣と同じ働きをする。単純に言えば、トランプは貨幣を乱発しているのだ。1つの嘘は別の嘘を糊塗する。1つのツイートは別のツイートを抹消し、事実確認など全くされないまま、スレッドが延々と続く。

トランプの勝利は民主党の敗北を意味するだけでなく、あらゆる予想や警告のシステムを誤ったものとし、アナリストやコメンテーターの信用を貶め、結果的に彼らの一切のロジックをすり抜けた。これは政治的異常であり、常軌を逸した想定外の出来事だった。トランプの勝利から1年後、ジャーナリストのミシェル・ゴールドバーグは、ニューヨーク・タイムズ紙に寄せた「黙示録の記念日」という記事の中で、「いかに切れ者だろうと、何が起こるか誰も予想がつかず、ひどく振り回された」と述べている。

その後4年間、民主党やアメリカの主要メディアは、この新たな覇権主義的権力のメカニズムを理解しえないままでいる。トランプが挑発しても、「リベラル」は倫理的憤慨を表明するのがせいぜいだ。そうした憤慨は、前代未聞の政治的現象を目の当たりにしていながら、認めようとしない姿勢の表れである。今こそ彼らは目を開き、トランプ現象が消滅していないことを認めるべきである。この現象を支えるのは、彼の支持層の中でももっとも活発な少数派で、トランプの極端な言動や暴力への呼びかけに歩を緩めるどころか、自分たちの怒りをその中に見出す。彼の支持者層を団結させているのは、確固たる真実にノーを突きつける力だ。不信は絶対的信仰にまで高められ、政治家だろうと、メディア、知識人、研究者だろうと、誰も容赦せず、すべての者をトランプの火刑台送りにする。

トランプは法、規範、習慣に則った民主的枠内で統治するのではなく、不信につけ込む。自らの「言説」の信頼性を「体制」不信の上に打ち立てるという逆説的な手法であり、不信のもたらす影響をさらに深刻化させようとする。選挙以降、トランプは絶えず戦ってきた。彼の在職中、政治は挑発と衝撃の連続と化し、それらが法令、宣言、あるいは単純なツイートとして現れた。イスラム教徒の移民禁止、シャーロッツヴィル事件後の白人至上主義の擁護、北朝鮮とのツイート合戦、警察によるアフロアメリカン、ジョージ・フロイド殺害を受けて起こった抗議活動を犯罪化させようという動き等々。

トランプはホワイトハウス入りすると同時に、群衆の恨みを煽り、性差別と外国人嫌いという古い悪魔を目覚めさせ、人口学上、社会学上、そして経済危機のあおりを受けて衰退したアメリカの側面に1つの顔、声、可視性を与えた。この瞬間を待ちわびていた野蛮で模糊とした力を野に放った。彼はこうしたことを、神経を逆なでするような歪んだ独特なやり方で実行した。復讐の欲望に身を焦がす群衆の中に身を投じ、彼らの興奮を煽った。憎悪を旗印とし、怒りをトランプというブランド名にした。大衆に及ぼす彼の力は道化師じみた様相を呈するが、これは劣った指導力の証などではない。トランプは必要不可欠な道化師なのだ。

私たちは往々にして、この常軌を逸した人物の求心力、そのメッセージの現代性、社会との共振、アメリカの過去を理解しきれていない。

トランプ現象は、不意を突いて権力を奪取した気の触れた者の話どころか、時代の真実を語っている。トランプの勝利は単なる選挙の突発事やアクシデントなどではなく、政治上未曽有の時代の始まりを告げている。彼がアメリカ大統領に就任して以来、この現象は世界規模で広がり、グロテスクな権力、すなわち様々な形の道化師の暴政に道を開いた。

本書では、2016年のトランプの大統領当選から、イタリアの5つ星運動(M5S)と手を組んだマッテオ・サルヴィーニ率いる北部同盟〔現在では「同盟」〕の勝利、さらに2019年のボリス・ジョンソンの首相就任まで、「グロテスクな権力」を体現する新世代リーダーの勃興の足跡をたどり、信頼性のある物語ではなくカーニバルの様態と様式を手立てに我が物顔に振る舞う、この新たな権力の原動力に光を当てる。

[書き手]クリスチャン・サルモン(ジャーナリスト、作家、研究者)
道化師政治家の時代:トランプ、ジョンソンを生み出したアルゴリズム戦略 / クリスチャン・サルモン
道化師政治家の時代:トランプ、ジョンソンを生み出したアルゴリズム戦略
  • 著者:クリスチャン・サルモン
  • 翻訳:ダコスタ吉村花子
  • 出版社:原書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(210ページ)
  • 発売日:2023-03-22
  • ISBN-10:4562072695
  • ISBN-13:978-4562072699
内容紹介:
パンデミックの時代、カーニバル化する政治状況下で、IT技術を駆使したポピュリズムで台頭した支配者たちを分析する。

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