書評

『諜報の天才 杉原千畝』(新潮社)

  • 2018/01/29
諜報の天才 杉原千畝  / 白石 仁章
諜報の天才 杉原千畝
  • 著者:白石 仁章
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(213ページ)
  • 発売日:2011-02-01
  • ISBN-10:4106036738
  • ISBN-13:978-4106036736
内容紹介:
国難をいち早く察知する驚異の諜報能力。この男にソ連は震えあがり、ユダヤ系情報ネットワークは危険を顧みず献身した-。日本の「耳」として戦火のヨーロッパを駆けずり回った情報士官の、失われたジグソーパズル。ミステリアスな外交電報の山にメスを入れ、厖大なピースを70年ぶりに完成させた本邦初の快挙。日本が忘れ去った英知の凡てがここにある。

情報収集と分析に優れた才能

1990年代のある時期、第2次大戦中にユダヤ人を救ったことで知られる、外交官の杉原千畝にまつわる本が、続々と刊行された。その数の多さに、いささか辟易(へきえき)した覚えがある。すべてを読んだわけではないが、必要以上に杉原の業績を持ち上げたり、逆に過小評価したりする傾向があり、それが不満だった。情緒的な取り上げ方が多く、本来必要な学術的なアプローチが、おろそかになっていた。

その点、本書の著者はきわめて客観的な分析を行っており、等身大の杉原像を描き出すことに成功した。ユダヤ人へのビザ発給問題もさることながら、杉原が携わった諜報活動に論点を絞り、その業績を具体的に明らかにしたのは、従来欠けていた部分を補う意味で評価できる仕事である。

ここでいう諜報は、地道な情報収集・分析活動を意味している。それこそ、海外駐在の外交官の主たる仕事といってよい。杉原はその方面で優れた才能を発揮し、やがて〈諜報の杉原〉として、省内に知られる存在になる。たとえば、満州国外交部に在籍した34年前後に、北満鉄道譲渡に関して諜報活動を展開し、交渉相手のソ連をうろたえさせたという。

おそらくそのために、のちにソ連勤務を発令された杉原を、ソ連側は〈好ましからざる人物〉として、受け入れを拒否する異例の措置に出た。そのおり、杉原から事情聴取した外務省の記録「杉原通訳官ノ白系露人接触事情」が、外交史料館に残っている。著者は杉原研究の過程で、70年近く眠っていたこの史料を発見し、本書を書くきっかけをつかんだという。杉原幸子夫人をはじめ、関係者への取材も精力的に行い、わずかに残された外交電信にも、目配りをきかせている。

純粋の学術書ではないが、従来のやや偏った杉原像を正したところに、本書の価値があるだろう。
諜報の天才 杉原千畝  / 白石 仁章
諜報の天才 杉原千畝
  • 著者:白石 仁章
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:単行本(213ページ)
  • 発売日:2011-02-01
  • ISBN-10:4106036738
  • ISBN-13:978-4106036736
内容紹介:
国難をいち早く察知する驚異の諜報能力。この男にソ連は震えあがり、ユダヤ系情報ネットワークは危険を顧みず献身した-。日本の「耳」として戦火のヨーロッパを駆けずり回った情報士官の、失われたジグソーパズル。ミステリアスな外交電報の山にメスを入れ、厖大なピースを70年ぶりに完成させた本邦初の快挙。日本が忘れ去った英知の凡てがここにある。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2011年4月24日

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