書評
『福田村事件 -関東大震災・知られざる悲劇』(五月書房新社)
関東大震災の発生から9月1日で100年になる。発生直後、「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といったデマが撒かれた結果、多くの朝鮮人が虐殺された。朝鮮人虐殺犠牲者追悼式典への追悼文送付を見送り続けてきた小池百合子都知事だけではなく、ネット上では、史実を歪めたり、矮小化したりする動きが目立つ。
当時、殺されたのは朝鮮人だけではなかった。千葉県福田村で、香川県からやって来た売薬行商人たちが、朝鮮人ではないかとの疑いをかけられ、地元の自警団に殺された。亡くなった9名の中には、2歳の子ども、そして、妊娠中の女性もいた。君が代を歌わされ、イロハ四十七字を言っても、讃岐弁の訛りもあり、多くの野次馬からの「誤魔化されたらいかん」「朝鮮人に間違いない」の声に押されるように手を下してしまった。
『福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇』(辻野弥生著・五月書房新社・2200円)を記したのは、書籍の紹介文に頼れば「歴史好きの平凡な主婦」。文献を調べ上げ、貴重な証言を重ね合わせ、なぜこのようなことが起きたのか、疑念をぶつけながら事件を立体化させていく。
殺人犯に対し、「三五〇円の見舞い金を戸数割りによって徴収し、支給」、それだけではなく、「村をあげて農作業の援助もしたといわれる」。真っ先に加害者に同情する様子が、当時の空気を知らせる。飛び交った流言蜚語に乗っかり、自分たち以外の誰かのせいにする。今でも変わらない。大きな事件が起きる度、SNSには「〇〇人の仕業では」といった推察が出てくる。
この事件についての劇映画を作った森達也が、巻末の寄稿で「善良な人が善良な人を殺す」のはなぜなのかと問う。恐ろしいのは忘却。人はすぐに忘れる。忘れると、同じようなことを起こす。
100年前の出来事を現在に照らし合わせるように読む。直接語る人がいなくなると、歴史は加工されやすくなる。為政者が都合よく編集する。それを避けるために、こうして引っ張り出された事実を直視したい。
当時、殺されたのは朝鮮人だけではなかった。千葉県福田村で、香川県からやって来た売薬行商人たちが、朝鮮人ではないかとの疑いをかけられ、地元の自警団に殺された。亡くなった9名の中には、2歳の子ども、そして、妊娠中の女性もいた。君が代を歌わされ、イロハ四十七字を言っても、讃岐弁の訛りもあり、多くの野次馬からの「誤魔化されたらいかん」「朝鮮人に間違いない」の声に押されるように手を下してしまった。
『福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇』(辻野弥生著・五月書房新社・2200円)を記したのは、書籍の紹介文に頼れば「歴史好きの平凡な主婦」。文献を調べ上げ、貴重な証言を重ね合わせ、なぜこのようなことが起きたのか、疑念をぶつけながら事件を立体化させていく。
殺人犯に対し、「三五〇円の見舞い金を戸数割りによって徴収し、支給」、それだけではなく、「村をあげて農作業の援助もしたといわれる」。真っ先に加害者に同情する様子が、当時の空気を知らせる。飛び交った流言蜚語に乗っかり、自分たち以外の誰かのせいにする。今でも変わらない。大きな事件が起きる度、SNSには「〇〇人の仕業では」といった推察が出てくる。
この事件についての劇映画を作った森達也が、巻末の寄稿で「善良な人が善良な人を殺す」のはなぜなのかと問う。恐ろしいのは忘却。人はすぐに忘れる。忘れると、同じようなことを起こす。
100年前の出来事を現在に照らし合わせるように読む。直接語る人がいなくなると、歴史は加工されやすくなる。為政者が都合よく編集する。それを避けるために、こうして引っ張り出された事実を直視したい。
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