書評

『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』(東洋経済新報社)

  • 2025/03/15
魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史 / 森 功
魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史
  • 著者:森 功
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 装丁:単行本(358ページ)
  • 発売日:2024-12-18
  • ISBN-10:4492224254
  • ISBN-13:978-4492224250
内容紹介:
迷走する「林真理子体制」。裏切られた改革。大宅賞作家が「日本一のマンモス私大」の「権力と闇」に光を当て、現在進行形の「タブー」に迫る。2021年、田中英壽理事長(当時)が率いる日… もっと読む
迷走する「林真理子体制」。
裏切られた改革。
大宅賞作家が「日本一のマンモス私大」の「権力と闇」に光を当て、現在進行形の「タブー」に迫る。

2021年、田中英壽理事長(当時)が率いる日本大学を舞台に起こった一連の事件には、日本の私立大学が長らく抱えてきた共通の病が潜んでいた。日本一のマンモス私大「日本大学」の歴代トップが歩んできた日大の歴史を紐解きながら、転換期にある日本の私大問題を掘る。

120万の卒業生を日本社会に送り出した日本最大の私学である日大は、私学の歴史そのものを投影しているといっていい。光の裏に潜む知られざる暗黒史もまた、日大の歴史といえる。――「はじめに」より

文理学部畑の加藤直人から理事長の座を引き継いだ芸術学部出身の林真理子体制になった日大は、田中の側近幹部職員や理事を主要ポストから外し、田中支配から解放された。それは間違いない。反面、こと大学の組織運営という点では、迷走していく。それは、ある意味でカリスマ理事長の田中による統治といガバナンスが機能しなくなったからかもしれない。実のところ、そこを危惧している日大の職員も少なくない。――第9章より
閉じられた組織は、開かれた組織を目指すのではなく、開かれているかのように見える組織を目指す。イメージを作り、そのイメージにヒビが入らないように、閉じられた組織で守り抜こうと試みる。

『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』(森功著・東洋経済新報社・1980円)を読み終えて、そんなことを思う。どんな人でも、渦の中に巻き込まれると、あらかじめこびりついていた保身と同化してしまうものなのか。

125万人以上の卒業生を送り出してきた日本最大の私大・日本大学。2018年にアメリカンフットボール部による反則タックル事件が起き、21年の医学部附属板橋病院の建て替え計画を巡る背任事件で、田中英壽元理事長が失脚。その後、大学の出身者で作家の林真理子が理事長に就任するも薬物事件が発覚し、その隠蔽が疑われた。

「人気作家によるクリーンな大学改革という金箔が剥がれ落ちていった」現在地からさかのぼる、135年の歴史。長らく君臨してきた存在による策略、群がる人々の思惑をほじくり出す。そこには、外から入る余地がない巨大組織の権力構造があった。

多くの学生が社会へ出ていくスケールメリットを生かすため、帰属意識を強化する。そこに忍び込む「地下水脈」がある。政治家、メディア、オリンピックをはじめとしたスポーツ興行など、巨大な分母が常に狙われてきた。

少子化の時代、学生の確保はあらゆる大学の課題だが、だからこそイメージを気にする。新たな執行部は「行動規範」を提示し、アルバイトの人たちにまで誓約書の提出を義務付けた。職員から「われわれ教職員をまったく信用していないことの裏返し」などと反対の声があがると、あっさりと提出が撤回された。

組織が迷走すると、権力構造がむき出しになる。その上で、厳しく問われる。それでも変わらない。他者のせいにして守る人・組織が残る。そんな歴史の中で窒息せざるを得なかったのは誰か。「魔窟」の奥から声が聞こえてくる。
魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史 / 森 功
魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史
  • 著者:森 功
  • 出版社:東洋経済新報社
  • 装丁:単行本(358ページ)
  • 発売日:2024-12-18
  • ISBN-10:4492224254
  • ISBN-13:978-4492224250
内容紹介:
迷走する「林真理子体制」。裏切られた改革。大宅賞作家が「日本一のマンモス私大」の「権力と闇」に光を当て、現在進行形の「タブー」に迫る。2021年、田中英壽理事長(当時)が率いる日… もっと読む
迷走する「林真理子体制」。
裏切られた改革。
大宅賞作家が「日本一のマンモス私大」の「権力と闇」に光を当て、現在進行形の「タブー」に迫る。

2021年、田中英壽理事長(当時)が率いる日本大学を舞台に起こった一連の事件には、日本の私立大学が長らく抱えてきた共通の病が潜んでいた。日本一のマンモス私大「日本大学」の歴代トップが歩んできた日大の歴史を紐解きながら、転換期にある日本の私大問題を掘る。

120万の卒業生を日本社会に送り出した日本最大の私学である日大は、私学の歴史そのものを投影しているといっていい。光の裏に潜む知られざる暗黒史もまた、日大の歴史といえる。――「はじめに」より

文理学部畑の加藤直人から理事長の座を引き継いだ芸術学部出身の林真理子体制になった日大は、田中の側近幹部職員や理事を主要ポストから外し、田中支配から解放された。それは間違いない。反面、こと大学の組織運営という点では、迷走していく。それは、ある意味でカリスマ理事長の田中による統治といガバナンスが機能しなくなったからかもしれない。実のところ、そこを危惧している日大の職員も少なくない。――第9章より

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2025年2月8日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
武田 砂鉄の書評/解説/選評
ページトップへ