書評
『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』(東洋経済新報社)
閉じられた組織は、開かれた組織を目指すのではなく、開かれているかのように見える組織を目指す。イメージを作り、そのイメージにヒビが入らないように、閉じられた組織で守り抜こうと試みる。
『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』(森功著・東洋経済新報社・1980円)を読み終えて、そんなことを思う。どんな人でも、渦の中に巻き込まれると、あらかじめこびりついていた保身と同化してしまうものなのか。
125万人以上の卒業生を送り出してきた日本最大の私大・日本大学。2018年にアメリカンフットボール部による反則タックル事件が起き、21年の医学部附属板橋病院の建て替え計画を巡る背任事件で、田中英壽元理事長が失脚。その後、大学の出身者で作家の林真理子が理事長に就任するも薬物事件が発覚し、その隠蔽が疑われた。
「人気作家によるクリーンな大学改革という金箔が剥がれ落ちていった」現在地からさかのぼる、135年の歴史。長らく君臨してきた存在による策略、群がる人々の思惑をほじくり出す。そこには、外から入る余地がない巨大組織の権力構造があった。
多くの学生が社会へ出ていくスケールメリットを生かすため、帰属意識を強化する。そこに忍び込む「地下水脈」がある。政治家、メディア、オリンピックをはじめとしたスポーツ興行など、巨大な分母が常に狙われてきた。
少子化の時代、学生の確保はあらゆる大学の課題だが、だからこそイメージを気にする。新たな執行部は「行動規範」を提示し、アルバイトの人たちにまで誓約書の提出を義務付けた。職員から「われわれ教職員をまったく信用していないことの裏返し」などと反対の声があがると、あっさりと提出が撤回された。
組織が迷走すると、権力構造がむき出しになる。その上で、厳しく問われる。それでも変わらない。他者のせいにして守る人・組織が残る。そんな歴史の中で窒息せざるを得なかったのは誰か。「魔窟」の奥から声が聞こえてくる。
『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』(森功著・東洋経済新報社・1980円)を読み終えて、そんなことを思う。どんな人でも、渦の中に巻き込まれると、あらかじめこびりついていた保身と同化してしまうものなのか。
125万人以上の卒業生を送り出してきた日本最大の私大・日本大学。2018年にアメリカンフットボール部による反則タックル事件が起き、21年の医学部附属板橋病院の建て替え計画を巡る背任事件で、田中英壽元理事長が失脚。その後、大学の出身者で作家の林真理子が理事長に就任するも薬物事件が発覚し、その隠蔽が疑われた。
「人気作家によるクリーンな大学改革という金箔が剥がれ落ちていった」現在地からさかのぼる、135年の歴史。長らく君臨してきた存在による策略、群がる人々の思惑をほじくり出す。そこには、外から入る余地がない巨大組織の権力構造があった。
多くの学生が社会へ出ていくスケールメリットを生かすため、帰属意識を強化する。そこに忍び込む「地下水脈」がある。政治家、メディア、オリンピックをはじめとしたスポーツ興行など、巨大な分母が常に狙われてきた。
少子化の時代、学生の確保はあらゆる大学の課題だが、だからこそイメージを気にする。新たな執行部は「行動規範」を提示し、アルバイトの人たちにまで誓約書の提出を義務付けた。職員から「われわれ教職員をまったく信用していないことの裏返し」などと反対の声があがると、あっさりと提出が撤回された。
組織が迷走すると、権力構造がむき出しになる。その上で、厳しく問われる。それでも変わらない。他者のせいにして守る人・組織が残る。そんな歴史の中で窒息せざるを得なかったのは誰か。「魔窟」の奥から声が聞こえてくる。
ALL REVIEWSをフォローする