海賊になりたいって? よく考えた方がいい
いきなりこんなことを書いて、驚いただろうか。まずは自己紹介しておこう。そうすれば、よく考えた方がいいと言った意味がわかるだろう。俺の名前は教えられないが、それにはふたつの理由がある。ひとつは、俺はスパニッシュ・メイン〔大航海時代におけるカリブ海周辺大陸沿岸のスペイン帝国が支配した地域で、フロリダ半島からメキシコ、中米、南米北岸までを指す〕からバルバリア海岸〔北西アフリカの地中海沿岸〕まで、あちこちの収税吏や地元の警備隊から指名手配されているからで、もうひとつは、俺の素性を明かしたら、きみは怯えてしまい、この本を読む気が失せてしまうのではと思うからだ……おたがい、それはよくないだろう?
だから、よく考えてから読み始めてくれ。その理由は、この本には、どうすれば海賊になれるか、どうすれば帆桁の末端から吊り下げられずに長生きして成功できるかといった、他の本には書いてないことが書いてある。なぜこんなことが書けるかというと、この本を書いているのは、かつてはきみと同じ青二才だったが、今は、何て言うか……そう、ひとかどの海賊になった男だからだ! 俺は片目と片脚はなくしたが、才覚まではなくしていない。これまで身につけたいくばくかの知識を、きみに伝えたいと思っている。
だが、言っておくが、この本に書いてあることは、すべて俺ひとりが見たことやしたことではない。俺はこの邪悪な世界のあちこちからやってきた、まっとうな船乗りや腹黒い悪党と出会ってきたが、この本には彼らの知恵も含まれている。だから、カリブ海のバッカニア諸島の海賊の人生だけでなく、北アメリカ大陸の海賊や私掠船〔敵国の船を攻撃して、積み荷を奪う許可(私掠免許状)を得た個人の船〕、バルバリア海岸のイスラム艦隊、それに、中国や日本の残虐な船乗りたちについての知識も得られる。こうした男たちの中には学がある者もいて、自分にとって海賊の生活とはどんなものかを詳細に記述した航海日誌を書いている。この本にはこうした洞察も使っているので、海賊になって成功するために必要な情報はすべて得られるだろう。そうした情報から、何か価値あることが学べるはずだ!
また、俺は海賊の中の海賊と言われる人物に直接仕えた男にも話を聞いた。俺の父親は、若い頃、有名な海賊バーソロミュー・ロバーツのもとで船乗りをしていた。彼は「ブラック・バート(黒い準男爵)」と呼ばれていたが、今から50年前、戦いのさなかに弾丸の破片が喉を貫通して命を落とした。不運な最期だったが、ともあれ絞首刑にはならずにすんだ。海賊として活躍していた間、彼はあまりに悪名高かったため、その死に際して政府は彼を「最後の海賊」と呼び、世の人々に海賊の時代は終わったと告げた。だが、実際のところ、海賊は過去の遺物なのだろうか? 本書を読んで、海賊の時代は本当に終わったのか、自分で判断してもらいたい!
[書き手]スティーブン・ターンブル(リーズ大学講師、国際教養大学客員教授)