潰れそうだった学校を変えた、「絶校長」先生の常識破りの行動
少子化時代にもかかわらず、生徒数を伸ばし続けている高校が福岡にあります。柳川高校です。スポーツの強豪校として知られている学校ですが、現在はスポーツ以外の面からも大きな注目を集めています。たとえば「生徒自身による校則改定」。最近では学食に「一風堂」が入ったこともニュースになりました。学校改革の旗振りは、校長の古賀賢先生。型破りの取り組みは、福岡のテレビや新聞等でたびたび取り上げられています。今回は古賀先生の初めての著書『学校を楽しくすれば日本が変わる』から一部を抜粋してご紹介します。生徒数激減時代、なぜ生徒数が伸びているのか?
少子化が進み、私立高校の中には受験倍率が定員を割る学校が全国各地で増えてきています。日本私立学校振興・共済事業団の「私立高等学校入学志願動向」(2023年度)でも、全国平均の入学定員充足率は85・28%で、前年度比0・9ポイント減。入学者が定員に満たなかった入学定員充足率が100%未満の学校数は全国1293校中895校で、全体の69・2%となっています。
そんな中、柳川高校は新入生、全校生徒数ともに増え続けています。
最も生徒数が少なくなった2010年の719人から2024年現在は1210人に。その背景にあるのは、疑問と不安です。
「子どもたちの進路を考えるとき、『いい大学、いい就職』をゴールにした従来の教育を信じていいのかな? 自分たちの若い頃と同じ感覚での学校選びでいいのかな?」
保護者の皆さんの多くが、肌感覚として何か違うかもと感じています。もちろん、これから高校生になる、進学の当事者である中学生たちも同じです。
テストでいい点数を取るための勉強、18歳時点での偏差値を上げることを目指した授業、大学進学に強い学校選びで、本当にいいの?
2022年から高校で新しい学習指導要領が全面的に施行され、2025年から大学入試の教科、科目の大幅再編も始まります。
保護者は「これから先、どんな学びの場に子どもたちを通わせるのがいいのか」と迷い、子どもたちは「もっと自分がワクワクできる学校はないのかな?」と探しています。
そこで、私たちは「グローバル学園構想」「スマート学園構想」「宇宙修学旅行」という3本の柱を打ち出し、柳川高校には勉強のその先にある大切な感性を育てる教育があることをアピールしてきました。
子どもたち1人ひとりの将来につながる何かを感じてもらう学校。
表現力や発想力、創造力を伸ばし、身につけさせていく学校。
朝起きて「ああ、今日も学校に行かなきゃいけない」と思うのではなく、「今日も学校に行きたい!」とワクワクする学校。
生徒数の増加は、子どもたちと保護者の方々の期待の表われだと考えています。そして、その思いに応えるためにも原点を大切にしながら、柳川高校は未来に向けて挑戦し続けていきます。
絶校長を名乗り、ルフィになると宣言する校長
柳川高校は、1941年に福岡県柳河商業学校として創立された福岡県柳川市にある私立の学校です。東京や大阪から見たら、よくある私立高校の1つにすぎないと思います。でも、今、僕らの学校は福岡県で知らない人は誰もいないくらいの注目を集めています。少子化が進行する中、地方の一私立高校である柳川高校では新入生、全校生徒数ともに増え続けています。地域から多くの人の期待が集まっている大きな理由は、柳川から世界視野で物事を見られる子どもを育てるプロジェクトを本気で進めているからです。
そして、僕はそのプロジェクトの旗振り役として絶校長を名乗り、子どもたち、保護者、教職員、地域の人たちを巻き込み、学校改革を進めています。
ある日の全校朝礼で、僕は全校生徒たちの前でこう宣言しました。
「今日から俺は『ワンピース』のルフィになると決めた!」
「そして、この学校を、この仲間たちといっしょに世界一の学校にしていく!」
ルフィとは、マンガ『ワンピース』の主人公。行く先々で仲間を集めながら大海原を行く、自由を愛するヒーローです。そして、僕は子どもたちに学校で作成した世界地図(通称「海賊の地図」)を見せ、柳川高校が世界展開していく「グローバル学園構想」への夢を語りました。
世界から柳川へ 柳川から世界へ
2016年、私学による日本初の海外附属中学校として、タイ南部ナコンシータマラートに「柳川高等学校附属タイ中学校」を開校。2019年度より、その卒業生がタイから柳川高校に入学し、共に学んでいます。現在、アジア10カ所とイタリア、イギリスなどの合計13の国と地域に海外事務所を構え、将来的には全学年、全学科に留学生を受け入れ、生徒の3分の1が留学生で構成されるグローバルキャンパスを目指していく。
世界から柳川へ、そして柳川から世界へ。次世代を見据えた教育を追求するんだ!
でっかい構想を、その実現のために各国を飛び回っては小さなトラブルに巻き込まれてきた自分の失敗談を交えて語っていきました。
子どもたちは1人も退屈そうな顔をせず、聞いてくれました。
僕にとって、毎月1回、体育館に全校生徒が集まる全校朝礼は勝負の場です。
子どもたちに話しながら、同時に教職員の方々にもメッセージを伝えています。
社会に影響を与えるような大きなことを成す2割の人になるには?
「社会に影響を与えるような大きなことを成す人は、世の中全体の約2割の人だという話があります。誰もが、その〝2割〞に入れる可能性があります。それにはまず、自分の能力を最大限に伸ばせる環境に身を置き、自分の視野を、世界を広げること。
そして、お互いを高め合える仲間と共に過ごすことです。尊敬できる仲間が見ている世界、考え方を見て学び、『自分も』と本気で夢や目標に向き合う。
僕はそうして成長していく生徒たちを、たくさん見てきました。
君も自らアクションを起こせば、絶対にできる!
夢に向かって本気になれる人、待っています!!」
聞いてくれている人の心に刺されば、相手の意識が変わります。
意識が変わると、行動が変わります。
子どもたちに夢を語り、チャレンジすることが当たり前の校風をつくりたい。
僕にとって全校朝礼は、学校改革に向けたメッセージを発信する大切な勝負の場所なのです。
日本中の学校が抱える5つの問題と向き合う
日本は今、世界中のどの国も経験していない少子超高齢社会に突入しています。出生率は低下し、急速に人口の減少が進みます。僕を含め、昭和生まれの大人にとって人口が増え、経済が成長するのは当たり前のことでした。学校運営においても、公立私立ともに学校は新設され、生徒数は増えるもの。長らくそう考えられてきたのです。
しかし、地方の私立高校の校長兼理事長である僕には、もう20年以上前からまったく異なる現実が見えていました。
出生率低下はそのまま生徒数の減少に直結し、社会の変化に対応する教育を行なえない学校は生き残っていくことができない。首都圏で暮らす方々にはピンとこないかもしれませんが、地方都市ほどこの傾向は顕著です。
柳川高校の学校改革は、まさに学校存続への危機意識から始まったと言えます。
僕は次の5つの課題を常に意識して、現場に立ってきました。
1 生徒数減少時代の学校教育の在り方とは?
■ 子どもたちのクリエイティブな素養を育てるための教育を行なうことが大事
■ 現場では解決できないことは、「リーダーの信念」と「ハードランディングできる突破力」で変えていく
■ リーダーは変化の必要性を感じつつ、タイミングを見計らい、行動を起こす
■ 常に、生徒が求めている学び、時代に即した教育を追求し、一歩、半歩先を目指した改革を行なっていく
2 子どもたちが自ら考えて行動していく教育へ
■ グローバル化がより一層加速する中、現状の偏差値教育、18歳の頂点学力を高める大学受験のための教育では、世界と戦うことができない
■ これからの社会で必要になるのは、子どもたちが自ら考えて行動していく教育
■ 日本に必要な教育は、クリエイティブ+行動力を育てること
■ ゼロからイチを創り出す自由な発想や行動力を育てるため、まずは校長である自分が率先してその姿を見せ続けていく
3 デジタルネイティブの時代の教育へ
■ 今後は確実にAIが社会を、教育を変えていく。そのとき、人間に欠かせないのはAIに考えを伝える力
■ 従来の日本の教育は過剰なサービスを行なうから、クリエイティブ+行動力のある人が育たない
■ 与えられた課題を処理する教育から、「自分を表現する力」を育むカリキュラムへ
■ 社会の第一線で活躍する大人たちと直接つながる機会を増やし、「語彙力、企画力、言葉の力」=「伝える力」を養っていく
4 不登校の生徒への対応
■ 不登校の子どもたちを学校現場がネガティブに捉えるのをやめる
■ 不登校は、子どもたちが学びに対して「求める物」が変わってきている現象の1つ
■ 型にはめない、型にはまらない大人がいることで、登校しやすくなる
■ 学校に来た後、自由に過ごせる居場所を用意する
■ 通信制の教育など、環境をつくることで子どもたちの多様な学びに対応できる
5 教職員の働き方改革
■ 学校改革を進めるには、教職員の負担を減らし、その力を十分に発揮してもらうことが不可欠
■ 全校朝礼など、常にリーダーがビジョンを語る場を設ける
■ ミドルマネージャーと共に組織を変えていく
この5つは、日本中の学校が多かれ少なかれ抱えている課題です。本書には、これらの課題解決のヒントとなる事例がいくつも盛り込まれています。今まさに教育現場で努力されている教職員の皆さん、学校改革の方法に知恵を絞っている教育関係者の方々、また子どもの進路について向き合っている保護者の方々に役立てていただければ、幸いです。
人は変われる! その1ミリずつの奮闘記
でも、本音を言えば、僕はもっと多くの人たちに「人は変われる」というポジティブなメッセージを伝えたいと思っています。だから、この本には僕たちが今まさに柳川高校で取り組んでいる学校改革のことを軸に、「自分を変えたい!」と奮闘してきた日々のことを詰め込みました。
人は一瞬で劇的に変わることはできません。
でも、たった1ミリの変化が、3年後、5年後の大きな成果につながります。これから本書を読み進めながら、「この取り組みはおもしろそうだから、やってみようかな」と思う瞬間があったら、「かな」を取って「やってみて」ください。
そんな変化が1つでも起きたら、読んでくれたあなたも、書いた僕も、大成功です!
※本稿は『学校を楽しくすれば日本が変わる』「はじめに」を元に一部編集して作成しました
[書き手]古賀賢