「末は博士か大臣か」という文句が存在したのは遠い昔のこと。いまではどちらも希少価値がなくなっている。大臣はポストだからまだいい。博士のほうはなるまでも大変だが、なってからがもっと大変だ。アカデミアのポストは極端に狭い門で、民間企業などに就職しようと思っても年齢の壁がたちはだかる。
本書は、研究者の道から「外」の世界に出ようとした21人の博士たちが、その後どんな軌跡をたどったかを語ったものである。その進路は実に多種多様で、企業に勤めても自由に産と学を行き来している人もいれば、またアカデミアに戻ってきた人もいる。起業家になった人もいれば、政治家になった人もいる。
こうした博士たちに共通するのは、苦難を経験したにもかかわらず、語り口が明るいことだ。研究とビジネスを比較して、「肝心なのは最終目標が面白いと思えるかどうかで、両者のプロセスは基本的に同じだと思います」とある人は言う。好きな研究に打ち込んだ経験は、今手がけている仕事を好きになる能力として活かされる。読者にも、これからの社会を支える人々に対する期待感がわいてくる本だ。