書評

『実験』(新潮社)

  • 2026/08/21
実験 / 田中 慎弥
実験
  • 著者:田中 慎弥
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(209ページ)
  • 発売日:2013-01-28
  • ISBN-10:4101334838
  • ISBN-13:978-4101334837
内容紹介:
新作が書けぬ小説家・下村に届いた旧友春男の近況。長く疎遠だった春男は、三十を過ぎうつ病を発症したという。青春の華やぎを一切拒絶して引きこもる息子を案じ、両親の相談を受けた下村は、… もっと読む
新作が書けぬ小説家・下村に届いた旧友春男の近況。長く疎遠だった春男は、三十を過ぎうつ病を発症したという。青春の華やぎを一切拒絶して引きこもる息子を案じ、両親の相談を受けた下村は、筆の進まぬ窮状を脱する好機と、ある不穏な「実験」を思いつくが……。潮風と砂が吹きつける海峡の町で、孤独且つ平和という泥濘であがく人々の精神の危機を冷徹にえぐる表題作ほか2篇。

実験 汽笛 週末の葬儀

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書けない作家の焦燥と執着

田中慎弥の小説は、どこか読み手を追いつめるところがある。読んでいて呼吸が苦しくなるような箇所がある。自伝的な要素があるからか、誰が読んでも幾分か自分と重なる。

新作『実験』。とりわけ表題作には、新人賞を獲(と)って文壇にデビューした作家が出てくる。4冊、単行本も出た。だが生活がままならない。奥さんの稼ぎによって生活が維持できている。

なにより小説が書けない。これまでの乏しい人生経験は断片的にいろんな小説に混ぜた。もうネタがない。そんな折、幼(おさな)馴染(なじみ)の春男から連絡が。うつだという春男が会いたい、といっているらしい……。

才能が涸渇(こかつ)したわけでもない主人公の小説家は、春男と会ううちに、ちょっと閃(ひらめ)くものがある。鄙(ひな)びた地方都市。デビューして数年経(た)った新人作家。担当編集者とのやりとり。誰の身にも起こる、ということではない。それでも、田中の得意とする正確な描写の彼方(かなた)に浮かび上がるのは、一人の人間が生きていく焦燥のようなものだ。だが作家は書くことへと回帰する。そこから離れられない。その凄(すご)みには瞠目(どうもく)させられる。
実験 / 田中 慎弥
実験
  • 著者:田中 慎弥
  • 出版社:新潮社
  • 装丁:文庫(209ページ)
  • 発売日:2013-01-28
  • ISBN-10:4101334838
  • ISBN-13:978-4101334837
内容紹介:
新作が書けぬ小説家・下村に届いた旧友春男の近況。長く疎遠だった春男は、三十を過ぎうつ病を発症したという。青春の華やぎを一切拒絶して引きこもる息子を案じ、両親の相談を受けた下村は、… もっと読む
新作が書けぬ小説家・下村に届いた旧友春男の近況。長く疎遠だった春男は、三十を過ぎうつ病を発症したという。青春の華やぎを一切拒絶して引きこもる息子を案じ、両親の相談を受けた下村は、筆の進まぬ窮状を脱する好機と、ある不穏な「実験」を思いつくが……。潮風と砂が吹きつける海峡の町で、孤独且つ平和という泥濘であがく人々の精神の危機を冷徹にえぐる表題作ほか2篇。

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初出メディア

日本経済新聞

日本経済新聞 2010年6月23日

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