書評
『実験』(新潮社)
書けない作家の焦燥と執着
田中慎弥の小説は、どこか読み手を追いつめるところがある。読んでいて呼吸が苦しくなるような箇所がある。自伝的な要素があるからか、誰が読んでも幾分か自分と重なる。新作『実験』。とりわけ表題作には、新人賞を獲(と)って文壇にデビューした作家が出てくる。4冊、単行本も出た。だが生活がままならない。奥さんの稼ぎによって生活が維持できている。
なにより小説が書けない。これまでの乏しい人生経験は断片的にいろんな小説に混ぜた。もうネタがない。そんな折、幼(おさな)馴染(なじみ)の春男から連絡が。うつだという春男が会いたい、といっているらしい……。
才能が涸渇(こかつ)したわけでもない主人公の小説家は、春男と会ううちに、ちょっと閃(ひらめ)くものがある。鄙(ひな)びた地方都市。デビューして数年経(た)った新人作家。担当編集者とのやりとり。誰の身にも起こる、ということではない。それでも、田中の得意とする正確な描写の彼方(かなた)に浮かび上がるのは、一人の人間が生きていく焦燥のようなものだ。だが作家は書くことへと回帰する。そこから離れられない。その凄(すご)みには瞠目(どうもく)させられる。
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