書評

『近世近代小説と中国白話文学』(汲古書院)

  • 2017/09/04
近世近代小説と中国白話文学 / 徳田 武
近世近代小説と中国白話文学
  • 著者:徳田 武
  • 出版社:汲古書院
  • 装丁:単行本(398ページ)
  • 発売日:2010-10-00
  • ISBN-10:4762935204
  • ISBN-13:978-4762935206
内容紹介:
前著「日本近世小説と中国小説」「江戸漢学の世界」以降に書きためた、近世小説と近代小説に関する論考をまとめる。主として文言・白話を併せた中国小説・戯曲との関連を扱ったものを収める。
日本の近世小説と中国文学の関係についての研究は底力の要る作業だ。ニカ国の言語に精通し、浩瀚な文献を辛抱強く読みこなす能力が欠かせない。著者はその領域における稀有な研究者の一人だが、前著『日本近世小説と中国小説』(青裳堂書店)に続いて、本書でも中国小説の受容について数々の発見と新しい知見を披露した。

典籍を広く渉猟し、テクストの異同を手堅く実証する手法は、本書でも思う存分発揮されている。馬琴『塩梅余史』と鈴木桃野(とうや)『反古のうらがき』の材源考はその好例である。粉本の沈起鳳『諧鐸』は清朝の筆記小説で、中国でもほとんど知られていない。茫洋とした文献の海から底本にたどりつくまでには、粘り強い資料調査はもちろん、日頃の博覧のほうがものを言ったのであろう。

比較文学の盲点は、実証を重視するあまり、作家論作品論という文学研究の本質をかえって疎かにすることだ。本書はたんに典拠探しに終わるのではなく、たとえば馬琴による中国小説の翻案が、読本(よみほん)作家になる過程においてどのような意味があったかもきちんと検討されている。『月氷奇縁』の考証も作家の方法意識が芽生えた時期を特定するのに役立った。『八犬伝』の戦闘描写、幸田露伴における元曲受容の論考はいずれも創作方法の考察を射程に入れたものである。

ここ二十年来、江戸時代の日中比較文学研究は長足の進歩を遂げた。その中で著者の地道な努力がいかに大きな力を発揮したかは、本書を読んで改めて思い知らされた。

【この書評が収録されている書籍】
本に寄り添う Cho Kyo's Book Reviews 1998-2010 / 張 競
本に寄り添う Cho Kyo's Book Reviews 1998-2010
  • 著者:張 競
  • 出版社:ピラールプレス
  • 装丁:単行本(408ページ)
  • 発売日:2011-05-28
  • ISBN-10:4861940249
  • ISBN-13:978-4861940248
内容紹介:
読み巧者の中国人比較文学者が、13年の間に書いた書評を集大成。中国関係の本はもとより、さまざまな分野の本を紹介・批評した、世界をもっと広げるための"知"の読書案内。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

近世近代小説と中国白話文学 / 徳田 武
近世近代小説と中国白話文学
  • 著者:徳田 武
  • 出版社:汲古書院
  • 装丁:単行本(398ページ)
  • 発売日:2010-10-00
  • ISBN-10:4762935204
  • ISBN-13:978-4762935206
内容紹介:
前著「日本近世小説と中国小説」「江戸漢学の世界」以降に書きためた、近世小説と近代小説に関する論考をまとめる。主として文言・白話を併せた中国小説・戯曲との関連を扱ったものを収める。

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初出メディア

明治大学広報

明治大学広報 2005年1月1日

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