読書日記
江上 剛『クロカネの道-鉄道の父・井上勝』(PHP研究所)、青木 栄一『鉄道忌避伝説の謎』(吉川弘文館)、種村 直樹『東京ステーションホテル物語』(集英社)
鉄道敷設 一筋に
<1>江上剛『クロカネの道-鉄道の父・井上勝(まさる)』(PHP研究所・1,944円)は、長州藩士の息子として幕末に生まれ、やがて青雲の志を抱いて伊藤博文らと共にイギリスへ密航した井上勝の一代記。日本に鉄道が走り、人や物が自由に行き来するようになってこそ、国としてのまとまりが生まれる。…との信念のもと、井上は幾多の困難を乗り越えてイギリスで勉学に励み、帰国後は鉄道敷設に邁進(まいしん)します。出世よりも、「クロカネの道」を少しでも早く、長く日本に走らせることに没頭した井上は、日本で最初に、鉄道に魅入られた人なのかも。彼の猪突猛進(ちょとつもうしん)な生き様は、レールをつき進む列車の姿とも、重なります。
「クロカネの道」にも記されますが、鉄道の黎明(れいめい)期には、西郷隆盛や黒田清隆などが、鉄道敷設に対して激しく反対しました。のみならず鉄道敷設にあたっては、さまざまな事情から反対する動きもあったのです。
今も日本各地にその手の「鉄道忌避伝説」が残されますが、果たして鉄道反対運動は本当にあったのか、と検証するのが<2>青木栄一『鉄道忌避伝説の謎-汽車が来た町、来なかった町』(吉川弘文館・1,836円)。特に街道筋の宿場町では、鉄道が走ると町が衰退する、という理由から「あえて鉄道を拒否した」という話が残るケースがあるけれど、それが資料としては残っていないことが多いのです。
なぜその手の「伝説」が多く残ったのかを考察しつつ、実際にあった鉄道への反対運動をも記す本書。それによれば、やはり鉄道創業時の、すなわちゼロから一にする時の守旧派による反対は非常に厳しいものであった模様。今となっては当たり前に走る鉄道ですが、それがどのようなものかを知らない人々に敷設を納得させようとした井上らの苦労が、偲(しの)ばれます。
井上は東京駅開業の数年前に世を去りましたが、開業に先だってその銅像が、丸の内側に建てられました(東京駅改築工事により現在は撤去中)。
<3>種村直樹『東京ステーションホテル物語』(集英社文庫・518円)を読むと、ステーションホテルの歴史を通じて、東京駅そして日本の鉄道の歴史を、理解することができます。
長年、東京駅の繁栄を見守った井上の銅像。しかし地方に目を移せば廃線問題が取りざたされることが多い今の日本の鉄道業界の現状を、彼ならどのように捉えるのでしょうか?