コラム

沼野 充義「2018 この3冊」|マイケル・エメリック『てんてこまい』(五柳書院)、岡井隆/関口涼子『注解するもの、翻訳するもの』(思潮社)、木村朗子『その後の震災後文学論』(青土社)

  • 2019/01/13

2018 この3冊

(1)『てんてこまい 文学は日暮れて道遠し』マイケル・エメリック著(五柳書院)

(2)『注解するもの、翻訳するもの』岡井隆、関口涼子著(思潮社)

(3)『その後の震災後文学論』木村朗子著(青土社)


(1)はアメリカ人の若手日本文学者による文集。翻訳論、能から現代小説まで自由闊達(かったつ)に論じた文学論、そして本職の『源氏物語』研究と、いずれも本人が日本語で書いたもの。ドナルド・キーン以後の新しい日本学の時代の始まりを告げる本だ。


(2)は歌壇の最長老にして第一線の書き手であり続ける岡井隆と、気鋭の詩人関口涼子の間で交わされた往復書簡ならぬ、「往復詩簡」。「注解者」としての岡井に対して、さらにそれを注解し、フランス語に翻訳する関口が見事にかみ合う。詩とは何かという問いが全体に響いている美しい一書。


(3)二〇一一年の大震災からもう七年以上が経(た)ち、被災者の多くはいまだに苦しんでいるのに、為政者はまるでそれが無かったかのように振る舞い始めている。そんな中、忘れてはいけない、と言い張り続けることの大事さをこの本は教えてくれる。

てんてこまい―文学は日暮れて道遠し / マイケル・エメリック
てんてこまい―文学は日暮れて道遠し
  • 著者:マイケル・エメリック
  • 出版社:五柳書院
  • 装丁:単行本(382ページ)
  • 発売日:2018-08-01
  • ISBN-10:4901646311
  • ISBN-13:978-4901646314

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注解するもの、翻訳するもの / 岡井 隆,関口 涼子
注解するもの、翻訳するもの
  • 著者:岡井 隆,関口 涼子
  • 出版社:思潮社
  • 装丁:大型本(157ページ)
  • 発売日:2018-10-15
  • ISBN-10:4783736219
  • ISBN-13:978-4783736219
内容紹介:
「テキストでない」ものの注解、とは何か。「テキストがない」なら、何があるのか。はるか太平洋の真ん中から持ち帰ってきたもののことが、片時も頭から離れなかったのだ。コノシロのこと。… もっと読む
「テキストでない」ものの注解、とは何か。「テキストがない」なら、何があるのか。
はるか太平洋の真ん中から持ち帰ってきたもののことが、片時も頭から離れなかったのだ。コノシロのこと。
コノシロ?
(「TRANS-NOTATION2」)

「わたしといふ歌人は、この問いかけから無限に遠いところで作品を書き続けて来た。(…)持続する書きもの。途切れることなく続くといふこと」(岡井隆)、
「わたしにとって、詩とは、そこで毎回新しく言語を、一つの生命体として、または、一つの領土として作り上げていく場所でした」(関口涼子)。
「注解者」と「翻訳者」による詩の対話。
装幀=中島浩

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その後の震災後文学論 / 木村朗子
その後の震災後文学論
  • 著者:木村朗子
  • 出版社:青土社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(258ページ)
  • 発売日:2018-01-26
  • ISBN-10:4791770447
  • ISBN-13:978-4791770441

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2018年12月16日

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