作家論/作家紹介

保坂 和志『地鳴き、小鳥みたいな』(講談社)、保坂 和志『試行錯誤に漂う』(みすず書房)

  • 2022/06/30
地鳴き、小鳥みたいな / 保坂 和志
地鳴き、小鳥みたいな
  • 著者:保坂 和志
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(226ページ)
  • 発売日:2016-10-27
  • ISBN-10:4062202875
  • ISBN-13:978-4062202879
内容紹介:
独特の文章で、愛猫のこと、土地の記憶、過去のできごと、哲学的な思索、生を描くなかでの死の気配などが綴られる魅力の最新短篇集。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

試行錯誤に漂う / 保坂 和志
試行錯誤に漂う
  • 著者:保坂 和志
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(312ページ)
  • 発売日:2016-10-25
  • ISBN-10:4622085410
  • ISBN-13:978-4622085416
内容紹介:
「僕はとにかく国語的にはだめでも、ちゃんとイメージを伝えたい」――書くこと、考えることの自由を体現する小説家の最新エッセイ。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

「私」を表出、息のむ生々しさ

『地鳴き、小鳥みたいな』は小説で、『試行錯誤に漂う』は随筆。括(くく)りとしてはそうだが、ふたつはともに響き合う。

『地鳴き』に物語はなく、エピソードと随想の合体に近い。「。」で区切るところを「、」を打ってぐねぐねとつづける文体は、初めは奇妙に感じたが、エピソードの衝撃にかき消えた。

最初の一編は若い頃に知り合った先生のこと。あるとき性欲について話していると、突然、先生が進行中の純愛の話をはじめた。「……純愛といってもその先生の話はセックスありだった、セックスのあるないは純愛には関係ない、……」。先生は家族持ちの痩せた「おじいさん」だった。「保坂さんは口が固そうだから言うんですが、」ともらした話を、彼はすぐに同僚にバラし、「浮気!」と盛り上がったが、後にそれを純愛と思うようになる。

表題作は新聞連載した『朝露通信』の話ではじまる。「たびたびあなたに話してきたことだが僕は鎌倉が好きだ、」という書き出しの「あなた」は、読者への呼びかけではなくて、「特定の女性だった、一部の知り合いだけはそれをうすうす感じた、」とつづく。

これらの息をのむような生々しさは、読点が多用されていることに関係あるのだろうか。

文章を読点でつづけると羅列の気配を帯びると『試行錯誤に漂う』にある。物事が意識にのぼるとき、いくつものことが因果関係なく同時にやってくる。文章にそれを書こうとすると直列的にならざるを得ないが、読点を使うと少しだけ並列的になり、意識の働きに近づく。

「私が小説というときの小説は、行為とか手の動きとかにちかい」

原稿用紙に書き、手を動かしながら考える。書きたいことが先にあるのではなく、自分が書いたことに影響されて意識が活性化し、先が見えてくる。

先生の年齢に近づき、作品に描かれる感情や思考や意識には今の「私」が表出している。それを象徴するのは、「私は小説はとにかく作品でなく日々だ」という『試行錯誤…』のあとがきの言葉だ。これを「私にとっては」と言い直すと切実感は後退する。現在の生理がそう言わせているのだ。

どちらの作品からも、聞こえてくるのは「自分はこういう人間だ」という声である。こういう肉体と性格をもって生まれ、それを使ってこういう考えや感じ方を醸成し、書きながらそれを追認していく。だれもに通じるやり方ではないし、読む人も選ぶだろう。けれども、「こういう人間だ」とためらわずに宣言する者がいることで、人の心はどんなに自由になることか。

地鳴き、小鳥みたいな / 保坂 和志
地鳴き、小鳥みたいな
  • 著者:保坂 和志
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(226ページ)
  • 発売日:2016-10-27
  • ISBN-10:4062202875
  • ISBN-13:978-4062202879
内容紹介:
独特の文章で、愛猫のこと、土地の記憶、過去のできごと、哲学的な思索、生を描くなかでの死の気配などが綴られる魅力の最新短篇集。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

試行錯誤に漂う / 保坂 和志
試行錯誤に漂う
  • 著者:保坂 和志
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(312ページ)
  • 発売日:2016-10-25
  • ISBN-10:4622085410
  • ISBN-13:978-4622085416
内容紹介:
「僕はとにかく国語的にはだめでも、ちゃんとイメージを伝えたい」――書くこと、考えることの自由を体現する小説家の最新エッセイ。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2016年11月06日

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