コラム

本村 凌二「2024年 この3冊」毎日新聞|イェルク・リュプケ『パンテオン 新たな古代ローマ宗教史』(東京大学出版会)、持田明子、大野一道『ジョルジュ・サンドセレクション 別巻』(藤原書店)、大月康弘『ヨーロッパ史 拡大と統合の力学』(岩波書店)

  • 2025/01/28

2024年「この3冊」

<1>『パンテオン 新たな古代ローマ宗教史』イェルク・リュプケ著(東京大学出版会)

<2>『ジョルジュ・サンドセレクション 別巻』持田明子、大野一道編(藤原書店)

<3>『ヨーロッパ史 拡大と統合の力学』大月康弘著(岩波書店)


<1>注目は「生きられた宗教」というテーマ。エリートや皇帝ではなく、ローマ市民・庶民が生活経験する宗教とはどうであったのか。その宗教実践と経験は色彩に富んでおり、新しい宗教史の試みになる。重厚な大作であるが、読書後の充実感がある。

<2>19世紀フランスの作家。おびただしい書簡のために、その交友関係は華々しいばかりだ。なによりも愛の交流であり、「束縛されない愛」が大切であった。ドストエフスキーに愛読され、プルースト文学の始まりにもなったという。

<3>狭義のヨーロッパは西欧として理解されるが、著者は東欧にあったビザンツ社会の研究者。西欧近代社会への新たな視角があざやかになる。福田徳三、三浦新七、上原専禄、増田四郎にさかのぼる一橋学派のマクロ史学の伝統が目に浮かぶ。

パンテオン: 新たな古代ローマ宗教史 / イェルク・リュプケ
パンテオン: 新たな古代ローマ宗教史
  • 著者:イェルク・リュプケ
  • 翻訳:松村 一男,市川 裕
  • 出版社:東京大学出版会
  • 装丁:単行本(640ページ)
  • 発売日:2024-03-26
  • ISBN-10:413016046X
  • ISBN-13:978-4130160469
内容紹介:
古代地中海世界で宗教はいかに生まれたのか。人びとが神々に呼び掛け、帰属意識をもって実践する「生きられた宗教」が自立的に機能する状態=「パンテオン」が形成される過程を、民衆の宗教観… もっと読む
古代地中海世界で宗教はいかに生まれたのか。人びとが神々に呼び掛け、帰属意識をもって実践する「生きられた宗教」が自立的に機能する状態=「パンテオン」が形成される過程を、民衆の宗教観、生活の様子から描きだす、古典古代史研究の新たな新地平。Jörg Rüpke, Pantheon: A New History of Roman Religion(Princeton UP, 2018)の全訳。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。


ジョルジュ・サンドセレクション 別巻 サンド・ハンドブック / 持田 明子,大野 一道
ジョルジュ・サンドセレクション 別巻 サンド・ハンドブック
  • 著者:持田 明子,大野 一道
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(384ページ)
  • 発売日:2023-12-27
  • ISBN-10:4865784098
  • ISBN-13:978-4865784091
内容紹介:
19世紀「知の世界(サロン)」の核、サンドの全体像!新しいジョルジュ・サンド観!いよいよ完結!◎J-J・ルソーと友人だった祖父をもつサンドは、幼い頃からルソーを愛読。自然への愛、平… もっと読む
19世紀「知の世界(サロン)」の核、サンドの全体像!
新しいジョルジュ・サンド観!
いよいよ完結!

◎J-J・ルソーと友人だった祖父をもつサンドは、幼い頃からルソーを愛読。自然への愛、平等と博愛という“理想”をもつことを受け継いだ。
◎プルーストの文学の始まりは、サンド『捨て子のフランソワ』だった。
◎ドストエフスキーはサンドの熱烈な読者だった。
「あれだけ清らかな、無垢のゆえに力強い理想を、抱懐するものはない」。

----------
【目次】
〈プロローグ〉今、なぜジョルジュ・サンドか(大野一道)

本書関連地図

第Ⅰ部 現代によみがえるサンド――社会と文明を見るまなざし
1 自由への道――サンドとその時代 (ミシェル・ペロー/持田明子訳)
2 〈ルソーの精神的娘〉として (ジョルジュ・サンド)
3 自然へのまなざし――エコロジストの先駆、ジョルジュ・サンド (持田明子)
4 一八四八年革命とパリ・コミューン (ジョルジュ・サンド)

第Ⅱ部 主要作品紹介 (持田明子・大野一道・宮川明子)
『アンディアナ』/『ヴァランティーヌ』/『レリア』/『ジャック』/『アンドレ』/『シモン』/『ある旅人の手紙』/『モープラ』/『モザイク画師たち』/『スピリディオン』/『竪琴の七弦』/『フランス遍歴の職人』/『オラース』/『マヨルカの冬』/『コンシュエロ』/『ルードルシュタット伯爵夫人』/『ジャンヌ』/『アンジボーの粉挽き』/『アントワーヌ氏の罪』/『テヴェリーノ』/『魔の沼』/『ルクレティア・フロリアーニ』/『ル・ピッチニーノ』/『捨て子のフランソワ』/『少女ファデット(愛の妖精)』/『ほんもののグリブイユの物語』/『クローディ』(戯曲)/『デゼルトの城』/『笛師の群れ』/『わが生涯の物語』/『黄金の森の美男たち』/『雪の男』/『田園伝説集』/『彼女と彼』/『ジャン・ド・ラ・ロシュ』/『黒い町』/『ラ・カンティニ嬢』/『ヴィルメール侯爵』(戯曲)/『ローラあるいは結晶の世界への旅』/『シルヴェストル氏』/『最後の愛』/『転がる石』/『マルグレトゥ』/『戦時下のある旅人の日記』/『ナノン』/『お祖母さまのお話集』/『マリアンヌ』

〈エピローグ〉サンドの遺したメッセージ――ジョルジュ・サンドの今日性(持田明子)

ジョルジュ・サンド 略年譜(1804-76)

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。


ヨーロッパ史 拡大と統合の力学 / 大月 康弘
ヨーロッパ史 拡大と統合の力学
  • 著者:大月 康弘
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(272ページ)
  • 発売日:2024-01-23
  • ISBN-10:4004320038
  • ISBN-13:978-4004320036
内容紹介:
世界暦と黙示的文学が終末意識を突き動かすとき、ヨーロッパの歴史は大きく躍動した。古代末期に源流をもつ地中海=ヨーロッパの歴史を、人びとを駆動し「近代」をも産み落とした〈力〉の真相とともに探究する。「世界」を拡大し、統合した〈力〉とは何か。ナショナリズムと国民国家を超えた、汎ヨーロッパ世界展望の旅。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年12月21日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

関連記事
ページトップへ