書評

『ジョルジュ・サンドセレクション 別巻 サンド・ハンドブック』(藤原書店)

  • 2024/04/23
ジョルジュ・サンドセレクション 別巻 サンド・ハンドブック / 持田 明子,大野 一道
ジョルジュ・サンドセレクション 別巻 サンド・ハンドブック
  • 著者:持田 明子,大野 一道
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(384ページ)
  • 発売日:2023-12-27
  • ISBN-10:4865784098
  • ISBN-13:978-4865784091
内容紹介:
19世紀「知の世界(サロン)」の核、サンドの全体像!新しいジョルジュ・サンド観!いよいよ完結!◎J-J・ルソーと友人だった祖父をもつサンドは、幼い頃からルソーを愛読。自然への愛、平… もっと読む
19世紀「知の世界(サロン)」の核、サンドの全体像!
新しいジョルジュ・サンド観!
いよいよ完結!

◎J-J・ルソーと友人だった祖父をもつサンドは、幼い頃からルソーを愛読。自然への愛、平等と博愛という“理想”をもつことを受け継いだ。
◎プルーストの文学の始まりは、サンド『捨て子のフランソワ』だった。
◎ドストエフスキーはサンドの熱烈な読者だった。
「あれだけ清らかな、無垢のゆえに力強い理想を、抱懐するものはない」。

----------
【目次】
〈プロローグ〉今、なぜジョルジュ・サンドか(大野一道)

本書関連地図

第Ⅰ部 現代によみがえるサンド――社会と文明を見るまなざし
1 自由への道――サンドとその時代 (ミシェル・ペロー/持田明子訳)
2 〈ルソーの精神的娘〉として (ジョルジュ・サンド)
3 自然へのまなざし――エコロジストの先駆、ジョルジュ・サンド (持田明子)
4 一八四八年革命とパリ・コミューン (ジョルジュ・サンド)

第Ⅱ部 主要作品紹介 (持田明子・大野一道・宮川明子)
『アンディアナ』/『ヴァランティーヌ』/『レリア』/『ジャック』/『アンドレ』/『シモン』/『ある旅人の手紙』/『モープラ』/『モザイク画師たち』/『スピリディオン』/『竪琴の七弦』/『フランス遍歴の職人』/『オラース』/『マヨルカの冬』/『コンシュエロ』/『ルードルシュタット伯爵夫人』/『ジャンヌ』/『アンジボーの粉挽き』/『アントワーヌ氏の罪』/『テヴェリーノ』/『魔の沼』/『ルクレティア・フロリアーニ』/『ル・ピッチニーノ』/『捨て子のフランソワ』/『少女ファデット(愛の妖精)』/『ほんもののグリブイユの物語』/『クローディ』(戯曲)/『デゼルトの城』/『笛師の群れ』/『わが生涯の物語』/『黄金の森の美男たち』/『雪の男』/『田園伝説集』/『彼女と彼』/『ジャン・ド・ラ・ロシュ』/『黒い町』/『ラ・カンティニ嬢』/『ヴィルメール侯爵』(戯曲)/『ローラあるいは結晶の世界への旅』/『シルヴェストル氏』/『最後の愛』/『転がる石』/『マルグレトゥ』/『戦時下のある旅人の日記』/『ナノン』/『お祖母さまのお話集』/『マリアンヌ』

〈エピローグ〉サンドの遺したメッセージ――ジョルジュ・サンドの今日性(持田明子)

ジョルジュ・サンド 略年譜(1804-76)

「女性のための闘士」の全貌明らかに

ジョルジュ・サンドという名を聞いてすぐに思いあたる日本人はほとんどいないのではないだろうか。なにしろ、フランス本国にあっても、二十世紀には忘れ去られた作家であった。それが同世紀後半になって、およそ二万通にものぼるサンドの書簡が収集され全二十六巻の『書簡集』として出版されたばかりか、彼女の作品多数が次々と世に出て来たのだ。おりしも、二十年前の二〇〇四年は彼女の生誕二百年にあたり、フランス政府は「ジョルジュ・サンド年」として制定し、祝賀の式典が挙行されたほどである。

サンドの本名はオロール・デュパンであり、ルイ十六世の遠縁にあたる貴族の父とパリのしがない商人の娘だった母との間で嫡子として生まれた。この出自のせいか、貴族の娘として育ちながら、凡俗な民衆に心をよせて生きることができたのだろう。

父モーリスは進歩を支持し、旧体制(アンシャン・レジーム)を見切り、有能な軍人でありながら芸術家だったという。だが、四歳の幼子のとき落馬事故でなくなったために、オロールには輝かしい幻のような記憶しかないらしい。

母ソフィーはやっと読み書きができるだけだったが、美しくて陽気だった。だが、父の母つまりオロールの祖母は深い教養を備えた啓蒙期の女性で、孫娘に読書、会話、音楽、優雅さを教えようとした。

彼女は、祖母を亡くした翌年、十八歳のとき、九歳年上の男爵と結婚したが、たちまち幻滅を感じたという。思いやりのない男であり、狩猟と馬と犬だけが好きで、読書も音楽も会話も愛さない粗野な男だった。息子が生まれても、陰うつなばかりで、伴侶と理解し合えないまま、彼女はパリに出て、何人もの愛人ができたという。

一八三二年、二十八歳のとき文学活動を始め、最初の小説でジョルジュ・サンドと名のったのである。この時代、離婚はありえなかったので、やがて合法的な別居が成立し、祖母から相続した故郷ノアンの実家と子どもたちの親権を持つことになったという。この経験のせいで、彼女は結婚制度に反対するとともに、女性たちの民法上の平等のために闘った。

作家として世に出てからのサンドの活躍は、目をみはるものがある。おびただしい書簡のために、その交友関係は華々しいばかりだ。なによりも愛の交流であり、彼女にとっては「束縛されない愛」が大切であった。だからといって、彼女は男性の気を引こうとする女性ではまったくなかった。多くは男性を愛したというが、ときには女性も愛したらしい。さらに、友情はサンドの人生のなかで愛以上に大きな位置を占めていた。

名高い人物をあげるだけでも、作曲家リスト、文豪バルザック、大作家フローベール、さらにはイタリアの政治家マッツィーニなど枚挙のいとまがない。なかでも熱烈な恋情の浮名があったロマン派詩人ミュッセや作曲家ショパンなど目もくらむほどである。

ドストエフスキーはサンドの熱烈な読者であり、プルースト文学の始まりはサンドの小説にあるともいう。本書の後半はサンドの主要作品の紹介があり、彼女の全貌が明らかになるのだから、人類史の新しいページが開かれたかのようである。
ジョルジュ・サンドセレクション 別巻 サンド・ハンドブック / 持田 明子,大野 一道
ジョルジュ・サンドセレクション 別巻 サンド・ハンドブック
  • 著者:持田 明子,大野 一道
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(384ページ)
  • 発売日:2023-12-27
  • ISBN-10:4865784098
  • ISBN-13:978-4865784091
内容紹介:
19世紀「知の世界(サロン)」の核、サンドの全体像!新しいジョルジュ・サンド観!いよいよ完結!◎J-J・ルソーと友人だった祖父をもつサンドは、幼い頃からルソーを愛読。自然への愛、平… もっと読む
19世紀「知の世界(サロン)」の核、サンドの全体像!
新しいジョルジュ・サンド観!
いよいよ完結!

◎J-J・ルソーと友人だった祖父をもつサンドは、幼い頃からルソーを愛読。自然への愛、平等と博愛という“理想”をもつことを受け継いだ。
◎プルーストの文学の始まりは、サンド『捨て子のフランソワ』だった。
◎ドストエフスキーはサンドの熱烈な読者だった。
「あれだけ清らかな、無垢のゆえに力強い理想を、抱懐するものはない」。

----------
【目次】
〈プロローグ〉今、なぜジョルジュ・サンドか(大野一道)

本書関連地図

第Ⅰ部 現代によみがえるサンド――社会と文明を見るまなざし
1 自由への道――サンドとその時代 (ミシェル・ペロー/持田明子訳)
2 〈ルソーの精神的娘〉として (ジョルジュ・サンド)
3 自然へのまなざし――エコロジストの先駆、ジョルジュ・サンド (持田明子)
4 一八四八年革命とパリ・コミューン (ジョルジュ・サンド)

第Ⅱ部 主要作品紹介 (持田明子・大野一道・宮川明子)
『アンディアナ』/『ヴァランティーヌ』/『レリア』/『ジャック』/『アンドレ』/『シモン』/『ある旅人の手紙』/『モープラ』/『モザイク画師たち』/『スピリディオン』/『竪琴の七弦』/『フランス遍歴の職人』/『オラース』/『マヨルカの冬』/『コンシュエロ』/『ルードルシュタット伯爵夫人』/『ジャンヌ』/『アンジボーの粉挽き』/『アントワーヌ氏の罪』/『テヴェリーノ』/『魔の沼』/『ルクレティア・フロリアーニ』/『ル・ピッチニーノ』/『捨て子のフランソワ』/『少女ファデット(愛の妖精)』/『ほんもののグリブイユの物語』/『クローディ』(戯曲)/『デゼルトの城』/『笛師の群れ』/『わが生涯の物語』/『黄金の森の美男たち』/『雪の男』/『田園伝説集』/『彼女と彼』/『ジャン・ド・ラ・ロシュ』/『黒い町』/『ラ・カンティニ嬢』/『ヴィルメール侯爵』(戯曲)/『ローラあるいは結晶の世界への旅』/『シルヴェストル氏』/『最後の愛』/『転がる石』/『マルグレトゥ』/『戦時下のある旅人の日記』/『ナノン』/『お祖母さまのお話集』/『マリアンヌ』

〈エピローグ〉サンドの遺したメッセージ――ジョルジュ・サンドの今日性(持田明子)

ジョルジュ・サンド 略年譜(1804-76)

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年2月10日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
本村 凌二の書評/解説/選評
ページトップへ