コラム

中村 桂子「2024年 この3冊」毎日新聞|デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー『土と脂 微生物が回すフードシステム』(築地書館)、方波見康雄『医療とは何か 音・科学そして他者性』(藤原書店)、大野一道『<決定版>ミシュレ入門 愛/宗教/歴史』(藤原書店)

  • 2025/01/30

2024年「この3冊」

<1>デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー著『土と脂 微生物が回すフードシステム』(築地書館)

<2>方波見康雄著『医療とは何か 音・科学そして他者性』(藤原書店)

<3>大野一道著『<決定版>ミシュレ入門 愛/宗教/歴史』(藤原書店)


生きものとしての人間を大切にしない社会へと更に歩を進めた一年だった。まだ遅くない。いのちに目を向けた三冊だ。

<1>土壌、生きもの、人間の関わりを知る科学を通して健康に生きるための食、更には農業のありようを探り、生きた土の重要性に気づく。二十一世紀の農業とそれに基づく暮らしを示す。

<2>町医者を自負する97歳の著者は、医療とは病を患う人のいのちの声を聞くことだという。病への不安と恐れ、家族への責任などに悩む人間の声だ。まさに生きる存在としての人間を見ている。

<3>「ルネサンス」を、自然な生き方をしていた時代への回帰としたミシュレ。洋の東西を問わず、万物と人間とが生命体として一つという考えが基本であることを示す。彼の目は、子ども、女性、若者に向く。

土と脂: 微生物が回すフードシステム / デイビッド・モントゴメリー,アン・ビクレー
土と脂: 微生物が回すフードシステム
  • 著者:デイビッド・モントゴメリー,アン・ビクレー
  • 翻訳:片岡 夏実
  • 出版社:築地書館
  • 装丁:単行本(416ページ)
  • 発売日:2024-08-27
  • ISBN-10:4806716693
  • ISBN-13:978-4806716693
内容紹介:
健康の根は健康な土壌から生える―生命のすべての基盤となる土壌が、耕起・化学肥料・雑草根絶を要とする慣行農業によって脅かされている。不健康な土壌が、土壌微生物や植物・動物、そして人間… もっと読む
健康の根は健康な土壌から生える―生命のすべての基盤となる土壌が、耕起・化学肥料・雑草根絶を要とする慣行農業によって脅かされている。不健康な土壌が、土壌微生物や植物・動物、そして人間の健康にどのような影響を及ぼすか、大地に生命を取り戻し、栄養豊富で風味豊かな食物を作るには何が必要なのか。土壌微生物と人体の微生物の類似性を明らかにした名著『土と内臓』を著した地質学者と生物学者が解き明かす。

目次
「土壌の健康が食物の質に影響する」は本当か?
健康というパズルの重要なピース
土(人は岩でできている;生きている土;慣行農業の行きづまり;農民の医師)
植物(植物の身体;偉大なる園芸家;堆肥が育てる地下社会;多様な植物由来の見過ごされた宝石)
動物(沈黙の畑;地の脂;肉の中身;身体の知恵)
人間(健康の味;バランスの問題;作物に栄養を取り戻す;畑の薬;健康を収穫する)

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医療とは何か 〔音・科学そして他者性〕 / 方波見 康雄
医療とは何か 〔音・科学そして他者性〕
  • 著者:方波見 康雄
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(424ページ)
  • 発売日:2024-01-29
  • ISBN-10:4865784004
  • ISBN-13:978-4865784008
内容紹介:
医療とは、病を患う人のいのちの声を聴くことである。
「一介の町医者」として97年。
北海道奈井江の父の医院を継ぎ、そこに生きる人々を現場で見つめてきた、地域医療百年。
入院した時、その病院の医師に協働し、地元のかかりつけ医の診療を受けられる「開放型共同利用」を提唱・実現した医師。

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〈決定版〉ミシュレ入門 〔愛/宗教/歴史〕 / 大野 一道
〈決定版〉ミシュレ入門 〔愛/宗教/歴史〕
  • 著者:大野 一道
  • 出版社:藤原書店
  • 装丁:単行本(312ページ)
  • 発売日:2024-10-29
  • ISBN-10:486578439X
  • ISBN-13:978-4865784398
内容紹介:
ミシュレ没150年記念「愛とは、自己の存在や力を超えようとする生命の努力である。」「原始インドが、人類の草創期にあって、世界の母胎だった。ギリシア、ローマ、そして近代ヨーロッパに… もっと読む
ミシュレ没150年記念

「愛とは、自己の存在や力を超えようとする生命の努力である。」
「原始インドが、人類の草創期にあって、世界の母胎だった。ギリシア、ローマ、そして近代ヨーロッパにとって、人種、思想、言語の主要な源泉だった。」
(J・ミシュレ)

代表作『フランス史』、西欧歴史学において初めて“女性”を歴史の対象とし、その役割を炙り出した『女』『魔女』、多神教世界にも眼差しを向けた『人類の聖書』、残存する「中世」と先鋭化する「革命」のはざまで自由を求めて格闘する『フランス革命史』『民衆』、動植物をはじめ自然、地形を描く『虫』『鳥』『海』『山』。
全体史、感性の歴史の視座を獲得した「アナール派歴史学」の源流と言われ、“自然の中で生きる人間” を歴史学として作品化してきたミシュレ(1798-1874)に迫る!

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【目次】
はじめに――古代的世界の再生をめざして

Ⅰ 「戦争の時代」への言葉――『フランス史』『フランス革命史』を読む
1 正義の名のもとの侵略――十字軍
2 「異端」への弾圧
 アルビジョワ十字軍/プロテスタントへの大弾圧――サン=バルテルミの虐殺/
 カミザールの乱
3 フランス革命期の「恐怖政治」
むすび――「絶対理念」が他の排除につながる

Ⅱ 「不寛容の時代」への言葉
1 自然を見出した女たち――『魔女』(1862)を読む
2 教会に殺された素朴な信仰 ジャンヌ・ダルク
3 自然と古代の再発見――『ルネサンス』(1855-56)を読む

Ⅲ 「変革」のための言葉
1 「フランス革命」とは何か
2 「民衆」の発見――『民衆』(1846)を読む
3 自然との一体化――『学生よ』『女』『万物の宴』を読む

Ⅳ 「環境の時代」への言葉――『鳥』『虫』『海』『山』を読む

おわりに――『人類の聖書』(1864)によせて
あとがき
ミシュレ略年譜(1798-1874)

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年12月14日

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