書評

松原 隆一郎「2024年 この3冊」毎日新聞|脇田成『日本経済の故障箇所』(日本評論社)、細田昌志『力道山未亡人』(小学館)、佐藤俊樹『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』(岩波新書)

  • 2025/02/04

2024年「この3冊」

<1>『日本経済の故障箇所』脇田成著(日本評論社)

<2>『力道山未亡人』細田昌志著(小学館)

<3>『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』佐藤俊樹著(岩波新書)


<1>は日本で長期にわたり不況が続いた理由として、企業が過剰に貯蓄し設備に投資せず、家計の消費が過少であったことを挙げる。「賃上げ」は常識的な対策だが、主流派経済学はそう考えない。企業は投資し家計は消費する主体という思い込みがあるからだ。学者集団へのおもねりよりもデータを優先する健全な論考。

<2>は61年前に急死したプロレスラーの本質が、信用による借金を巨大な投資に回す実業家にあったことを、人生を返済に捧げた「未亡人」の証言から探り当てたノンフィクションの快作。力道山のセリフ「東京の夜を変えよう」に惹かれる。

<3>はマックス・ウェーバーの「資本主義の精神」とは工場での機械による大量生産ではなく、在宅での高級手織物供給方式のことだったと論証して虚を突かれた社会学の新解釈。

日本経済の故障箇所 / 脇田 成
日本経済の故障箇所
  • 著者:脇田 成
  • 出版社:日本評論社
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(224ページ)
  • 発売日:2024-07-02
  • ISBN-10:4535540853
  • ISBN-13:978-4535540859
内容紹介:
日本経済が陥っている長期停滞状況を、基礎的なデータで一つ一つ確認、どのような脱出策があるかを検討する。第1章 失われた30年の真因と今後のトレンド1-1. 逆回転するマクロ経済1-2. 政… もっと読む
日本経済が陥っている長期停滞状況を、基礎的なデータで一つ一つ確認、どのような脱出策があるかを検討する。

第1章 失われた30年の真因と今後のトレンド
1-1. 逆回転するマクロ経済
1-2. 政策対応が悪循環をもたらした
1-3. 内需をどう増やすのか
1-4. 問題を複雑にする2つのトレンド(1): 人口減少
1-5. 問題を複雑にする2つのトレンド(2): 技術革新
1-6. 金融危機過敏症がエネルギーショックを増幅


第2章 生産性以下の賃金が長期停滞を招いた
2-1. 「安い」のは賃金か生産性か
2-2. 製造業の高賃金は波及していたのか
2-3. ドル円の推移を3期に区分する
2-4. 生産性は上昇し賃金は追いついていない
2-5. 生産性以下の賃金がデフレをもたらしている
2-6. 利益と生産性は逆行しない


第3章 貯蓄過剰は自然治癒するのか
3-1. 混乱する内部留保の議論
3-2. バランスシートの長期推移
3-3. 海外直接投資立国のまぼろし


第4章 異次元緩和は円安誘導
4-1. 日銀総裁の5つの煙幕
4-2. 金融政策と為替レートを巡る3つの建前
4-3. 金利差: このままでは円安は続く
4-4. 消える円安メリット
4-5. 円安が加速する国内軽視
4-6. 抜け出せない「ぬるま湯」だったインフレ目標
4-7. 構造改革が生んだリフレ派


第5章 円高阻止から円「防衛」へ: 微害微益の終了
5-1. 金融危機の前にエネルギー危機が来た
5-2. 潤沢な運転資金供給がレパトリ円高を阻止した
5-3. 金融政策変更のチェックポイント
5-4. 構造的賃上げと賃金と物価の「好」循環


第6章 ボタンをどこで掛け違えたのか:好循環再考
6-1. 分配の3つの定義
6-2. 市場分配のミッシングリンク
6-3. 逆回転する経済政策
6-4. 途切れた利潤分配ルートをつなぎ直す
6-5. 所得再分配の状況


第7章 停滞脱出への処方箋
7-1. 最終目標を思い出せ
7-2. データ「見える化」でインフォームド・コンセント
7-3. 国としての老後の生活設計を
7-4. これでよかったのか、このままでいいのか

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力道山未亡人 / 細田 昌志
力道山未亡人
  • 著者:細田 昌志
  • 出版社:小学館
  • 装丁:単行本(320ページ)
  • 発売日:2024-05-31
  • ISBN-10:4093891613
  • ISBN-13:978-4093891615
内容紹介:
第30回小学館ノンフィクション大賞受賞作“戦後復興のシンボル”力道山が他界して60年。妻・田中敬子は80歳を越えた今も亡き夫の想い出を語り歩く。しかし、夫の死後、22歳にして5つの会社… もっと読む
第30回小学館ノンフィクション大賞受賞作

“戦後復興のシンボル”力道山が他界して60年。

妻・田中敬子は80歳を越えた今も亡き夫の想い出を語り歩く。

しかし、夫の死後、22歳にして5つの会社の社長に就任、30億円もの負債を背負い、4人の子の母親となった「その後の人生」についてはほとんど語られていない──。

〈未亡人である敬子には、相続を放棄する手もあった。
しかし、それは考えなかった。
「そんなことを、主人は絶対に望んでないって思ったんです」
敬子は社長を引き受けることにした〉(本文より)

「力道山未亡人」として好奇の視線に晒され、男性社会の洗礼を浴び、プロレスという特殊な業界に翻弄されながら、昭和・平成・令和と生きた、一人の女性の数奇な半生を紐解く傑作ノンフィクション!

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社会学の新地平──ウェーバーからルーマンへ / 佐藤 俊樹
社会学の新地平──ウェーバーからルーマンへ
  • 著者:佐藤 俊樹
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:新書(320ページ)
  • 発売日:2023-11-17
  • ISBN-10:4004319943
  • ISBN-13:978-4004319948
内容紹介:
マックス・ウェーバーとニクラス・ルーマン――科学技術と資本主義によって規定された産業社会の謎に挑んだふたりの社会学の巨人。難解で知られる彼らが遺した知的遺産を読み解くことで、私たちが生きる「この」「社会」とは何なのかという問いを更新する。社会学の到達点であり、その本質を濃縮した著者渾身の大作。

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毎日新聞

毎日新聞 2024年12月21日

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