書評
松原 隆一郎「2024年 この3冊」毎日新聞|脇田成『日本経済の故障箇所』(日本評論社)、細田昌志『力道山未亡人』(小学館)、佐藤俊樹『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』(岩波新書)
2024年「この3冊」
<1>『日本経済の故障箇所』脇田成著(日本評論社)
<2>『力道山未亡人』細田昌志著(小学館)
<3>『社会学の新地平 ウェーバーからルーマンへ』佐藤俊樹著(岩波新書)
<1>は日本で長期にわたり不況が続いた理由として、企業が過剰に貯蓄し設備に投資せず、家計の消費が過少であったことを挙げる。「賃上げ」は常識的な対策だが、主流派経済学はそう考えない。企業は投資し家計は消費する主体という思い込みがあるからだ。学者集団へのおもねりよりもデータを優先する健全な論考。
<2>は61年前に急死したプロレスラーの本質が、信用による借金を巨大な投資に回す実業家にあったことを、人生を返済に捧げた「未亡人」の証言から探り当てたノンフィクションの快作。力道山のセリフ「東京の夜を変えよう」に惹かれる。
<3>はマックス・ウェーバーの「資本主義の精神」とは工場での機械による大量生産ではなく、在宅での高級手織物供給方式のことだったと論証して虚を突かれた社会学の新解釈。
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