コラム
沼野 充義「2024年 この3冊」毎日新聞|小林エリカ著『女の子たち風船爆弾をつくる』(文藝春秋)、奈倉有里著『ロシア文学の教室』(文藝春秋)、アイザック・B・シンガー著『モスカット一族』(未知谷)
2024年「この3冊」
<1>小林エリカ著『女の子たち風船爆弾をつくる』(文藝春秋)
<2>奈倉有里著『ロシア文学の教室』(文藝春秋)
<3>アイザック・B・シンガー著『モスカット一族』(未知谷)
<1>太平洋戦争末期に日本では少女たちが勤労動員され、アメリカを攻撃する「風船爆弾」を作らされた。小林さんはこの半ば忘れられた史実を掘り起こし、数多くの「わたし」と「わたしたち」の響き交わす圧倒的な叙事詩を書き上げた。「小説にこんなことができるのか!」という驚き。
<2>まったく新しいロシア文学入門書。学生たちは魔法のような授業を通じて、作品世界に入り込む。同時にこれはみずみずしい青春小説でもある。文学へのピュアな愛に貫かれた一冊。私も学生時代にこういう授業を受けたかった!
<3>二〇世紀前半のワルシャワを舞台に、多くの個性的な登場人物が交錯し、失われたユダヤ人社会が生き生きと蘇る。シンガーという稀有の「語り部」の真骨頂。九百ページ近い大作を日本の読者に初めて届けた訳者の快挙を称えたい。
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