書評

中島 京子「2024年 この3冊」毎日新聞|岡真理著『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』(大和書房)、安田浩一著『地震と虐殺1923―2024』(中央公論新社)、奈倉有里著『文化の脱走兵』(講談社)

  • 2025/02/02

2024年「この3冊」

<1>岡真理著『ガザとは何か パレスチナを知るための緊急講義』(大和書房)

<2>安田浩一著『地震と虐殺1923―2024』(中央公論新社)

<3>奈倉有里著『文化の脱走兵』(講談社)


パレスチナとウクライナから、頭が離れない1年だった。戦争、集団殺害。その根底にあるものは、遠い国の話ではないことも感じられて、重苦しい気持ちが去らない。<1>は、ガザで起こっていることを理解するために必要最低限の知識を与えてくれる。ともかく、ここから、という思いで、年頭に読んだ。

<2>は、著者が100年前の関東大震災直後に起こった虐殺の地を訪ね、あらためて事件を丁寧に掘り起こす。ヘイトクライムによる悲劇を二度と引き起こさないために、「記憶のバトン」を受け取る重要性を考えさせられた。

<3>は、ウクライナで戦争が始まった年に、ロシア文学者である著者が書き始めたエッセイ。引用されるロシアの詩がどれも心に沁みて、やわらかい気持ちになる。タイトルの「脱走兵」は、セルゲイ・エセーニンの反戦詩から。

ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義 / 岡 真理
ガザとは何か~パレスチナを知るための緊急講義
  • 著者:岡 真理
  • 出版社:大和書房
  • 装丁:単行本(ソフトカバー)(208ページ)
  • 発売日:2023-12-24
  • ISBN-10:4479394206
  • ISBN-13:978-4479394204
内容紹介:
【緊急出版!】パレスチナ問題は決して〝難しく〟ない。歴史的文脈と問題の本質がわかる「まず、ここから」の一冊】■目次■■第1部 ガザとは何か4つの要点/イスラエルによるジェノサイド… もっと読む
【緊急出版!】パレスチナ問題は決して〝難しく〟ない。
歴史的文脈と問題の本質がわかる「まず、ここから」の一冊】

■目次■


■第1部 ガザとは何か
4つの要点/イスラエルによるジェノサイド/繰り返されるガザへの攻撃/イスラエルの情報戦/ガザとは何か/イスラエルはどう建国されたか/シオニズムの誕生/シオニズムは人気がなかった/なぜパレスチナだったのか/パレスチナの分割案/パレスチナを襲った民族浄化「ナクバ」/イスラエル国内での動き/ガザはどれほど人口過密か/ハマースの誕生/オスロ合意からの7年間/民主的選挙で勝利したハマース/抵抗権の行使としての攻撃/「封鎖」とはどういうことか/ガザで起きていること/生きながらの死/帰還の大行進/ガザで増加する自殺/「国際法を適用してくれるだけでいい」


■第2部 ガザ、人間の恥としての
今、目の前で起きている/何度も繰り返されてきた/忘却の集積の果てに/不均衡な攻撃/平和的デモへの攻撃/恥知らずの忘却/巨大な実験場/ガザの動物園/世界は何もしない/言葉とヒューマニティ/「憎しみの連鎖」で語ってはいけない/西岸で起きていること/10月7日の攻撃が意味するもの/明らかになってきた事実/問うべきは「イスラエルとは何か」/シオニズムとパレスチナ分割案/イスラエルのアパルトヘイト/人道問題ではなく、政治的問題


■質疑応答
ガザに対して、今私たちができることは?/無関心な人にはどう働きかければいい?/パレスチナ問題をどう学んでいけばいい?/アメリカはなぜイスラエルを支援し続けるのか?/BDS運動とは何?
■付録
もっと知るためのガイド(書籍、映画・ドキュメンタリー、ニュース・情報サイト)
パレスチナ問題 関連年表
本書は、10月20日京都大学、10月23日早稲田大学で開催された緊急セミナーに加筆修正を加えたものです。

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地震と虐殺 1923-2024 / 安田 浩一
地震と虐殺 1923-2024
  • 著者:安田 浩一
  • 出版社:中央公論新社
  • 装丁:単行本(600ページ)
  • 発売日:2024-06-19
  • ISBN-10:4120056864
  • ISBN-13:978-4120056864
内容紹介:
「朝鮮人が暴動を起こした、井戸に毒を投げ込んだ……」。関東大震災の発生直後、各地で飛び交ったデマによって多くの朝鮮人が命を奪われた。非常時に一気に噴き上がる差別と偏見。東京で、神奈… もっと読む
「朝鮮人が暴動を起こした、井戸に毒を投げ込んだ……」。関東大震災の発生直後、各地で飛び交ったデマによって多くの朝鮮人が命を奪われた。非常時に一気に噴き上がる差別と偏見。東京で、神奈川で、千葉で、埼玉で、悲惨な事件はいかなるメカニズムで起きたか。虐殺の「埋もれた歴史」は誰によってどのように掘り起こされてきたか。100年余りが経過した現在、何が変わり、何が変わらないのか。歴史的事実を葬ろうとする者たち、人災を天災の中に閉じ込めようとする政治家、差別行為にお墨付きを与える行政……。差別やヘイトクライムの問題を長年追ってきたジャーナリストが100年余り前と現在を往還し、虐殺事件が及ぼし続ける様々な風景を描く。

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文化の脱走兵 / 奈倉 有里
文化の脱走兵
  • 著者:奈倉 有里
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(224ページ)
  • 発売日:2024-07-11
  • ISBN-10:406535966X
  • ISBN-13:978-4065359662
内容紹介:
本を片手に、戦う勇気ではなく逃げる勇気を。言葉を愛する仲間たちに贈る、待望のエッセイ集。「国でいちばんの脱走兵」になった100年前のロシアの詩人、ゲーム内チャットで心通わせる戦火… もっと読む
本を片手に、戦う勇気ではなく逃げる勇気を。
言葉を愛する仲間たちに贈る、待望のエッセイ集。

「国でいちばんの脱走兵」になった100年前のロシアの詩人、ゲーム内チャットで心通わせる戦火のなかの人々、悪い人間たちを化かす狸のような祖父母たち──あたたかい記憶と非暴力への希求を、文学がつないでゆく。

「もし本が好きになったら──私たちがその人たちを見つけて、めいっぱい大切にしよう。世界中のたくさんの本を翻訳して、朗読して、笑ったり泣いたりしよう。」(「クルミ世界の住人」より)

紫式部文学賞を受賞したロングセラー『夕暮れに夜明けの歌を』の著者による、最新エッセイ集。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2024年12月14日

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