コラム

NHKメルトダウン取材班『福島第一原発事故の「真実」』(講談社)、塔短歌会・東北 編『3653日目 <塔短歌会・東北> 震災詠の記録』(荒蝦夷)

  • 2025/02/27
福島第一原発事故の「真実」 / NHKメルトダウン取材班
福島第一原発事故の「真実」
  • 著者:NHKメルトダウン取材班
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(738ページ)
  • 発売日:2021-03-01
  • ISBN-10:4065225299
  • ISBN-13:978-4065225295
内容紹介:
東日本壊滅はなぜ免れたのか? 取材期間10年、1500人以上の関係者取材で浮かび上がった衝撃的な事故の真相。他の追随を許さない圧倒的な情報量と貴重な写真資料を収録した、第一級のノンフィク… もっと読む
東日本壊滅はなぜ免れたのか? 取材期間10年、1500人以上の関係者取材で浮かび上がった衝撃的な事故の真相。
他の追随を許さない圧倒的な情報量と貴重な写真資料を収録した、第一級のノンフィクションがついに刊行。736ページの完全保存版

思いも寄らない真相が次々明らかに
真相1 吉田所長の英断「海水注入」はほとんど原子炉に届かなかった
真相2 1号機で唯一残された冷却装置は40年間にわたり「封印」されてきた
真相3 原子炉を救う減圧装置には、高温高圧になると動作しにくくなる弱点があった
真相4 2号機の消防注水の失敗が皮肉にもメルトダウンの進行を遅らさせて「最悪の事態」を防いだ
真相5 巨大な津波に備えて、津波対策に着手していた原発があった

東日本壊滅が避けられたのは偶然の産物だった!?
極限の危機。核の暴走を食い止めようと、吉田所長らは、爆発や被ばくの恐怖と闘いながら決死の覚悟で現場にとどまり、知恵を絞り出して、原子炉に水を入れ続けた。幸いにして、格納容器の爆発は免れた。当時の政府のシミュレーションでは、最悪の場合、福島第一原発の半径170キロ圏内がチェルノブイリ事故の強制移住基準に達し、半径250キロ圏内が、住民が移住を希望した場合には認めるべき汚染地域になるとされた。半径250キロとは、北は岩手県盛岡市、南は横浜市に至る。東京を含む東日本3000万人が退避を強いられ、これらの地域が自然放射線レベルに戻るには、数十年かかると予測されていた。
10年にわたる取材で、この最悪シナリオが回避されたのは、消防注水の失敗や格納容器のつなぎ目の隙間から圧が抜けたりといった幾つかの偶然が重なった公算が強い。この事故では、当初考えられていた事故像が新たに発見された事実や知見によって、どんでん返しのように変わった例は枚挙に暇がない。この極限の危機において、人間は核を制御できていなかった。それが「真実」である。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

3653日目: 〈塔短歌会・東北〉震災詠の記録 / 梶原さい子
3653日目: 〈塔短歌会・東北〉震災詠の記録
  • 著者:梶原さい子
  • 出版社:荒蝦夷
  • 装丁:単行本(480ページ)
  • 発売日:2021-03-03
  • ISBN-10:4904863712
  • ISBN-13:978-4904863718
内容紹介:
東日本大震災10年。24人1273首。梶原さい子、田中濯、花山周子など、東北に暮らし、東北を思う詠み人たちの歌。表現者が希求する世界はおそらく、常に表現された言葉の先にのみ存在する。表… もっと読む
東日本大震災10年。24人1273首。
梶原さい子、田中濯、花山周子など、東北に暮らし、東北を思う詠み人たちの歌。
表現者が希求する世界はおそらく、常に表現された言葉の先にのみ存在する。表現によって現出した世界は、その瞬間、存在すること自体の意味を失うからだ。言葉が次の言葉へ次の世界へと作者を誘う。――俳人高野ムツオ<本書解説より>
【目次】
はじめに/梶原さい子
東北 歌地図
99日目 東日本大震災ののちに
366日目 東日本大震災から1年を詠む
733日目 東日本大震災から2年を詠む
1099日目 東日本大震災から3年を詠む
1466日目 東日本大震災から4年を詠む
1833日目 東日本大震災から5年を詠む
2199日目 東日本大震災から6年を詠む
2566日目 東日本大震災から7年を詠む
2933日目 東日本大震災から8年を詠む
[解説]言葉との格闘の現場 高野ムツオ
作者◎浅野大輝/石井夢津子/井上雅史/歌川功/及川綾子/大沼智惠子/逢坂みずき/尾崎大誓/梶原さい子/数又みはる/加藤和子/小林真代/佐藤涼子/鈴木修治/武山千鶴/田中濯/田宮智美/千葉なおみ/冨樫榮太郎/外山つや子/花山周子/星野綾香/三浦こうこ/吉田健一

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

極限状況の記録と個々人の10年の歩みと

東日本大震災から十年が過ぎた。この年月が長かったのか短かったのかは、震災との関わり方によって違うだろう。ただはっきり言えるのは、もし、東京電力福島第一原子力発電所で事故が起きていなかったら、被災地は復興への道を着実に歩み、これまでに日常を取り戻していたはずだということである。「アンダーコントロール」という事実とは違う言葉の下での社会の動きとは違う真実を見て、これから何をすべきかを考えたいと思い、選んだ二冊である。

この十年間、短歌という表現を通して暮らしに向き合ってきた塔短歌会・東北のメンバーは、「時が過ぎる速さと遅さとを同時に感じ、混乱します」と書く。メルトダウンした燃料の取り出しや避難指示の解除が遅れに遅れたことへの「ようやく、でしょうか。ようやく、とは何でしょうか。これからの長い長い年月を思うと、途方に暮れるようです。しかしまた、『ようやく』までこぎ着けた人々の地道な営為の輝きも、同時に思われるのです」という思いはそのまま読む者の心に染み入る。

そこで「想定外」と言われた原発事故の現場体験も知りたいと思い、十年間に1500人以上の関係者への取材で浮かび上がった「真実」を多くの写真と共に記述した734ページの本に取り組んだ。どんどん増えていくメモの中で一つ伝えたいことを選ぶとすれば、これになる。十年前のあの時、最も注目された人、吉田昌郎所長の調書をパリ高等鉱業学校の研究チームが、誰もが読めるようにと全文翻訳したことである。「危機に対して、技術者が何を考え、どう行動したか」が分かり、「事故報告書」よりはるかに学ぶところが多いという指摘に、まさに学ぶところ大である。もちろん専門家は事故検証の最重要資料として「吉田調書」をあげるだろうが、皆が読むものとはあまり認識されていない。

緊急時に働くはずの、電気がなくても動くイソコン(非常用冷却装置)を生かせなかったという事実にも考えさせられた。危機の中、東京本社、所長、現場である中央制御室の情報共有がうまくいかない様子に、ハラハラ、イライラしながら読み進めると、「運転開始以来40年にわたってイソコンが一度も動いていなかった」ことが、事が思うように運ばない原因の一つとして出てくる。そしてアメリカでは五年に一度の実動作試験をしており、それは失敗から学んだものだとある。

印象的なこととして、偶々フランス、アメリカとの比較による問題点をあげることになったが、外国はすばらしくて日本はダメだなどというつもりはない。ただ日本では、原子力の安全性が、事故は決して起きてはならないという文脈の中で語られるところに問題があると再確認したのだ。事故の想定と、そのうえでの訓練ができない文化をつくってしまったことは、猛省を要する。

事故現場の人々の努力には頭が下がる。死を覚悟する場面が何度もあり、遺書を書いた人もいる。しかも、それを逃れられたのは偶然の結果であり、なぜそうなったかが未だにわからないところがあるのだ。とくにメルトダウンは今後の大きな課題だ。冷却のための注水が実は入っておらず、それ故に2号機の格納容器が破壊されなかったという今になって明らかになった事実には、驚く他ない。背筋が寒くなり、とにかくこれは、皆が事実に向き合って考えるところから出直す課題だと強く思う。

放射能も蚊取り線香で落ちちやえばいいのにね いいだらうね(小林真代 いわき市)
失くすって押入れの奥のランドセルさえもうしなうことだよ、みんな(逢坂みずき 仙台市)


24人が、震災に向き合いながら詠んだ1273首のどれもが心を打つが、重い本と並べて読んだためか、日常のつぶやきのような歌と気持ちが響き合った。

最初に出した冊子は『99日目』であり、そこから、震災後八年目にあたる『2933日目』までをまとめたものを十年目の「3653日目」のタイトルで出版したのである。

ここには、原発事故現場の人とは異なる、地震、津波、原発事故が突如日常に入りこんできた中で、日々を暮らす人々が描き出されている。家が半壊した中で次々と言葉が生まれてきた体験から、あの力は何だろうと問う人がいる。一方、現場には居らず、映像を見ても歌が生まれなかったという言葉もある。ここに、一人一人の状況、時間が見える。

そして、五年、六年と時が経つにつれて、「私の周りで東日本大震災が、話題になることは皆無に近くなった」という文も出てくる。お腹の中にいた子供が小学校に通うようになったという報告もある。震災後十年、被災者などと一括りにせずに、個々の事柄や人と時間の流れの一つ一つとを自分のこととして考えてみようと、一首、一首をていねいに読み直している。

福島第一原発事故の「真実」 / NHKメルトダウン取材班
福島第一原発事故の「真実」
  • 著者:NHKメルトダウン取材班
  • 出版社:講談社
  • 装丁:単行本(738ページ)
  • 発売日:2021-03-01
  • ISBN-10:4065225299
  • ISBN-13:978-4065225295
内容紹介:
東日本壊滅はなぜ免れたのか? 取材期間10年、1500人以上の関係者取材で浮かび上がった衝撃的な事故の真相。他の追随を許さない圧倒的な情報量と貴重な写真資料を収録した、第一級のノンフィク… もっと読む
東日本壊滅はなぜ免れたのか? 取材期間10年、1500人以上の関係者取材で浮かび上がった衝撃的な事故の真相。
他の追随を許さない圧倒的な情報量と貴重な写真資料を収録した、第一級のノンフィクションがついに刊行。736ページの完全保存版

思いも寄らない真相が次々明らかに
真相1 吉田所長の英断「海水注入」はほとんど原子炉に届かなかった
真相2 1号機で唯一残された冷却装置は40年間にわたり「封印」されてきた
真相3 原子炉を救う減圧装置には、高温高圧になると動作しにくくなる弱点があった
真相4 2号機の消防注水の失敗が皮肉にもメルトダウンの進行を遅らさせて「最悪の事態」を防いだ
真相5 巨大な津波に備えて、津波対策に着手していた原発があった

東日本壊滅が避けられたのは偶然の産物だった!?
極限の危機。核の暴走を食い止めようと、吉田所長らは、爆発や被ばくの恐怖と闘いながら決死の覚悟で現場にとどまり、知恵を絞り出して、原子炉に水を入れ続けた。幸いにして、格納容器の爆発は免れた。当時の政府のシミュレーションでは、最悪の場合、福島第一原発の半径170キロ圏内がチェルノブイリ事故の強制移住基準に達し、半径250キロ圏内が、住民が移住を希望した場合には認めるべき汚染地域になるとされた。半径250キロとは、北は岩手県盛岡市、南は横浜市に至る。東京を含む東日本3000万人が退避を強いられ、これらの地域が自然放射線レベルに戻るには、数十年かかると予測されていた。
10年にわたる取材で、この最悪シナリオが回避されたのは、消防注水の失敗や格納容器のつなぎ目の隙間から圧が抜けたりといった幾つかの偶然が重なった公算が強い。この事故では、当初考えられていた事故像が新たに発見された事実や知見によって、どんでん返しのように変わった例は枚挙に暇がない。この極限の危機において、人間は核を制御できていなかった。それが「真実」である。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

3653日目: 〈塔短歌会・東北〉震災詠の記録 / 梶原さい子
3653日目: 〈塔短歌会・東北〉震災詠の記録
  • 著者:梶原さい子
  • 出版社:荒蝦夷
  • 装丁:単行本(480ページ)
  • 発売日:2021-03-03
  • ISBN-10:4904863712
  • ISBN-13:978-4904863718
内容紹介:
東日本大震災10年。24人1273首。梶原さい子、田中濯、花山周子など、東北に暮らし、東北を思う詠み人たちの歌。表現者が希求する世界はおそらく、常に表現された言葉の先にのみ存在する。表… もっと読む
東日本大震災10年。24人1273首。
梶原さい子、田中濯、花山周子など、東北に暮らし、東北を思う詠み人たちの歌。
表現者が希求する世界はおそらく、常に表現された言葉の先にのみ存在する。表現によって現出した世界は、その瞬間、存在すること自体の意味を失うからだ。言葉が次の言葉へ次の世界へと作者を誘う。――俳人高野ムツオ<本書解説より>
【目次】
はじめに/梶原さい子
東北 歌地図
99日目 東日本大震災ののちに
366日目 東日本大震災から1年を詠む
733日目 東日本大震災から2年を詠む
1099日目 東日本大震災から3年を詠む
1466日目 東日本大震災から4年を詠む
1833日目 東日本大震災から5年を詠む
2199日目 東日本大震災から6年を詠む
2566日目 東日本大震災から7年を詠む
2933日目 東日本大震災から8年を詠む
[解説]言葉との格闘の現場 高野ムツオ
作者◎浅野大輝/石井夢津子/井上雅史/歌川功/及川綾子/大沼智惠子/逢坂みずき/尾崎大誓/梶原さい子/数又みはる/加藤和子/小林真代/佐藤涼子/鈴木修治/武山千鶴/田中濯/田宮智美/千葉なおみ/冨樫榮太郎/外山つや子/花山周子/星野綾香/三浦こうこ/吉田健一

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2021年4月24日

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