書評

『グレン・グールド発言集【新装版】』(みすず書房)

  • 2018/07/21
グレン・グールド発言集【新装版】 / グレン・グールド
グレン・グールド発言集【新装版】
  • 著者:グレン・グールド
  • 翻訳:宮澤 淳一
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(488ページ)
  • 発売日:2017-12-08
  • ISBN:4622086573
内容紹介:
グレン・グールドがこの世を去ってから35年、バッハの《ゴルトベルク変奏曲》を最初に録音してから60年以上が過ぎた。にもかかわらず、スピーカーからグールドの弾くピアノの音が流れ出すときわれわれの心は連れ出されてしまう。いったい、この不世出のピアニスト=音楽家は、どのようにものを考え、… もっと読む
グレン・グールドがこの世を去ってから35年、バッハの《ゴルトベルク変奏曲》を最初に録音してから60年以上が過ぎた。にもかかわらず、スピーカーからグールドの弾くピアノの音が流れ出すときわれわれの心は連れ出されてしまう。いったい、この不世出のピアニスト=音楽家は、どのようにものを考え、演奏と表現を実践して、こんな独異な音楽を生み出したのだろう。本書にその答がある。これまで刊行した『グレン・グールド著作集』『グレン・グールド書簡集』につづいて、本書に収められたのは、入手困難なインタヴュー、テレビ・ラジオ番組のための台本、未完・未定稿のまま残されたテキストなど、46編にのぼる。バッハ、ベートーヴェン、ブルックナーなどの作曲家論、リヒテル、ワイセンベルク、ビル・エヴァンズなどのピアニスト論から、「創造プロセスにおける贋造と模倣の問題」「電子時代の音楽論」や、マクルーハンとの対話「メディアとメッセージ」まで、どこを読んでも、グールドの面目躍如、その魅力は比類がない。日本におけるグールド研究の第一人者による、この日本語版は、遺稿「私にとって録音プロセスとは何を意味するか」を独自に加え、文献目録・註を増補、さらに貴重な写真資料も入った決定版である。

音楽の「なぜ」を精密に語ることばたち

なぜここはこの音? なぜここはこの色?

無数の音程や響きからたった一つの音が選びだされる。無数の明度や色調からたった一つの色が選びだされる。そこには、この音、この色以外、絶対ありえない。微(かす)かな肌合いのずれも許せない、その精密さというのはどこからくるのだろう。それが見えたとき「芸術」作品のほんとうの理解がはじまるのだとしたら、音痴で「色弱」(子どものころから医師にそう診断されてきた)のわたしなど、「芸術」にははなから縁なしと言うほかない。そしてこれまで、批評家のだれも、すくなくともわたしにはその「なぜ」を教えてくれなかった。

コンサート会場での演奏を拒絶し、「息を吹きかけてキーが下がらないピアノは弾きたくないね」とか「同じ運指で三度と弾いたことはありません」などとうそぶき、カラヤンにピアノとオーケストラの別収録を提案し、録音中は、楽譜や作曲者の指示を改変し、鍵盤を叩(たた)きながら低い声で歌い、空いた手で指揮する……。生前、ともかく物議をかもしつづけた「天才肌」のグレン・グールド。その口から次々とこぼれる言葉は、その「なぜ」を語ってくれる。「なぜ」は楽曲の構造をめぐるものなので、わたしには漠としか理解できない。けれども、〈精密〉を照準とした発言であることはわかる。

グールドの講演原稿やインタビュー記録、彼が作ったラジオ番組の台本などを集めた本書からは、グールドが、電子媒体を駆使して、音楽とそれをめぐる言説にどのような革新を持ち込もうとしたのかを知ることができる。バッハからシェーンベルクまでの音楽史から何を聴きとるべきかについてのグールド自身の一貫した鋭い考えにふれることができる。聴く者が音楽の創造に参加するというのがどういうことかがイメージできる。

みずからフレーズを弾き、レコードやテープを聴かせながら、作曲と変奏と演奏と聴取の何かを語りつづけたグールドのラジオ番組、それをしょっちゅう耳にできたトロントの市民がうらやましい。
グレン・グールド発言集【新装版】 / グレン・グールド
グレン・グールド発言集【新装版】
  • 著者:グレン・グールド
  • 翻訳:宮澤 淳一
  • 出版社:みすず書房
  • 装丁:単行本(488ページ)
  • 発売日:2017-12-08
  • ISBN:4622086573
内容紹介:
グレン・グールドがこの世を去ってから35年、バッハの《ゴルトベルク変奏曲》を最初に録音してから60年以上が過ぎた。にもかかわらず、スピーカーからグールドの弾くピアノの音が流れ出すときわれわれの心は連れ出されてしまう。いったい、この不世出のピアニスト=音楽家は、どのようにものを考え、… もっと読む
グレン・グールドがこの世を去ってから35年、バッハの《ゴルトベルク変奏曲》を最初に録音してから60年以上が過ぎた。にもかかわらず、スピーカーからグールドの弾くピアノの音が流れ出すときわれわれの心は連れ出されてしまう。いったい、この不世出のピアニスト=音楽家は、どのようにものを考え、演奏と表現を実践して、こんな独異な音楽を生み出したのだろう。本書にその答がある。これまで刊行した『グレン・グールド著作集』『グレン・グールド書簡集』につづいて、本書に収められたのは、入手困難なインタヴュー、テレビ・ラジオ番組のための台本、未完・未定稿のまま残されたテキストなど、46編にのぼる。バッハ、ベートーヴェン、ブルックナーなどの作曲家論、リヒテル、ワイセンベルク、ビル・エヴァンズなどのピアニスト論から、「創造プロセスにおける贋造と模倣の問題」「電子時代の音楽論」や、マクルーハンとの対話「メディアとメッセージ」まで、どこを読んでも、グールドの面目躍如、その魅力は比類がない。日本におけるグールド研究の第一人者による、この日本語版は、遺稿「私にとって録音プロセスとは何を意味するか」を独自に加え、文献目録・註を増補、さらに貴重な写真資料も入った決定版である。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2005年11月20日

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