書評
『ディスコ探偵水曜日』(新潮社)
トヨザキ的評価軸:
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
「おめえ、こりゃ傑作だぞ」
というわけで、皆さん、読まねばなりません。途中わからないことがいっぱい出てきても、本を閉じてはいけません。自分を閉じてはいけません。思考を停止してはいけません。だって、これはそういうことが書かれた本なんですから。多分。
主人公は〈今とここで表す現在地点がどこでもない場所になる英語の国で生まれた〉迷子探し専門の探偵ディスコ・ウェンズデイ。「now」と「here」で「nowhere」なんてかっこいいフレーズで始まるこの小説は、六歳の少女・梢を預かることになったディスコが、彼女を守るために時空を超える大活躍を見せる、新本格(トンデモ)ミステリーとハード(トンデモ)SFの持ち味を合体させた物語になってるんです。物語が動き出すきっかけは、幼い梢の体に十七歳の梢がやってきたこと。そればかりか、中二女子の魂ばかり奪うパンダラヴァーによって、昏睡状態に陥らされた島田桔梗の魂までが梢の体に侵入。しかも、梢の膣の中からは四本の指まで出てきてしまうのです。この一大事を解決するため、ディスコは凶暴な和菓子職人・水星Cと共に、六歳の梢の魂が迷い込んでしまったと思われる、福井県西暁町の奇妙な形状の館パインハウスへと向かいます。そこでは館の主である推理作家・暗病院終了の殺害事件を解決しようと、名探偵が集結していて――。
ここから名探偵たちの謎解き合戦が展開。大和民族はユダヤ人説、ウロボロス、ラグナレク(神々の黄昏)、ユグドラシル(世界樹)、魔法陣、タロットなど、ペダントリックな言説を駆使した謎解きが提示されては否定される。その繰り返しが無限に続いていくかと思われる上巻は、正直、冗長に思われます。でも、この一見バカミスと思わせるひとつひとつの仮説が、下巻で伏線として効いてくるので読み飛ばしちゃヤ。で、この清涼院流水の「JDCシリーズ」へのオマージュとして書かれた『九十九十九』(講談社文庫)の続篇かと思わせる物語が、なんと下巻に入ってハードSFの様相を呈していくんですの。で……、ああ、とても書ききれないっ。というわけで、この続きは次回で!
関連書評:豊崎由美【書評】舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』後篇
【この書評が収録されている書籍】
「金の斧(親を質に入れても買って読め)」
「銀の斧(図書館で借りられたら読めば―)」
「鉄の斧(ブックオフで100円で売っていても読むべからず)」
前篇 思わず“本読み”の直感も告げる「おめえ、こりゃ傑作だぞ」と
この上下巻併せて千ページを超えるメガノヴェルを読了した瞬間、わたしの性能の悪い脳味噌は大爆発。舞城王太郎。あんた、すごいよ。なんだかよくわかんないけど、すごい。すごすぎる、皆さんには正直に申し上げましょう。わたくし、おそらく『ディスコ探偵水曜日』に書かれていることの十分の一も理解できておりません。にもかかわらず、本読みとしての直感が告げておりますの。「おめえ、こりゃ傑作だぞ」
というわけで、皆さん、読まねばなりません。途中わからないことがいっぱい出てきても、本を閉じてはいけません。自分を閉じてはいけません。思考を停止してはいけません。だって、これはそういうことが書かれた本なんですから。多分。
主人公は〈今とここで表す現在地点がどこでもない場所になる英語の国で生まれた〉迷子探し専門の探偵ディスコ・ウェンズデイ。「now」と「here」で「nowhere」なんてかっこいいフレーズで始まるこの小説は、六歳の少女・梢を預かることになったディスコが、彼女を守るために時空を超える大活躍を見せる、新本格(トンデモ)ミステリーとハード(トンデモ)SFの持ち味を合体させた物語になってるんです。物語が動き出すきっかけは、幼い梢の体に十七歳の梢がやってきたこと。そればかりか、中二女子の魂ばかり奪うパンダラヴァーによって、昏睡状態に陥らされた島田桔梗の魂までが梢の体に侵入。しかも、梢の膣の中からは四本の指まで出てきてしまうのです。この一大事を解決するため、ディスコは凶暴な和菓子職人・水星Cと共に、六歳の梢の魂が迷い込んでしまったと思われる、福井県西暁町の奇妙な形状の館パインハウスへと向かいます。そこでは館の主である推理作家・暗病院終了の殺害事件を解決しようと、名探偵が集結していて――。
ここから名探偵たちの謎解き合戦が展開。大和民族はユダヤ人説、ウロボロス、ラグナレク(神々の黄昏)、ユグドラシル(世界樹)、魔法陣、タロットなど、ペダントリックな言説を駆使した謎解きが提示されては否定される。その繰り返しが無限に続いていくかと思われる上巻は、正直、冗長に思われます。でも、この一見バカミスと思わせるひとつひとつの仮説が、下巻で伏線として効いてくるので読み飛ばしちゃヤ。で、この清涼院流水の「JDCシリーズ」へのオマージュとして書かれた『九十九十九』(講談社文庫)の続篇かと思わせる物語が、なんと下巻に入ってハードSFの様相を呈していくんですの。で……、ああ、とても書ききれないっ。というわけで、この続きは次回で!
関連書評:豊崎由美【書評】舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』後篇
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