書評
『ALLIANCE アライアンス―人と企業が信頼で結ばれる新しい雇用』(ダイヤモンド社)
雇用を「関係」と再定義 最も自然な仕事の形描く
シリコンバレーの起業家である著者たちが、新しい雇用のモデルを示す。「アライアンス」という言葉に込められた本書の主張を一言で言うと、雇用を「取引」でなく「関係」として再定義するということだ。それは自立したプレーヤー同士がお互いにメリットを得ようと、期間を明確に定めて結ぶ提携関係である。会社と個人が互恵的でフラットな関係を結び、双方から時問と労力を投入し、結果的に雇用者は強いビジネスを、社員は優れたキャリアを手に入れる。そこでは相互信頼と相互投資が欠かせない。そう言うと、いかにも「シリコンバレー発の先端的で革新的な経営モデル!」という威勢のよい話、「日本の会社は遅れている!」といういつもの単純進歩主義的かけ声に聞こえるが、実際は全くそうではない。そこに本書の深みと味わいがある。
かつてはアメリカでも終身雇用が当たり前だった。それが1980年代以降、急速に雇用が「短期取引」になる。むき出しの労働市場の商品と化した個人は、少しでも良い条件を求めて目先のオファーに飛びつく。会社は費用と便益を天秤にかけた取引で経営を最適化する。両者の信頼は損なわれるが、「ビジネスってこんなもんだろ」――。
著者たちの問題意識は現在のアメリカの雇用に対する懐疑にある。アライアンスの関係は、新奇な経営モデルというよりは、これまでの行き過ぎた「取引」をあるべき姿へと揺り戻そうとする。「終身雇用の時代は終わった。これからはもっと柔軟で流動的な雇用へ移行しなければ……」という類いの今の日本の論調と逆を向いているのが面白い。科学や技術の世界では物事が一方向的に進歩する。しかし、企業や経営はそれほど単純ではない。過去より現在が全面的に「良い」わけではない。「進歩」するにしても、それは行ったり来たりしながらの話で、ジグザグの軌跡を描く。
経営という「人の世の営み」では、大切なことほど「言われてみれば当たり前」のことが多い。本書にしても、一見新しい提案のように早えるが、その実、古今東西の人間にとつて最も自然な「仕事の姿」をストレートに描いている。子供のころに遊んだ「お店屋さんごっこ」を思い出してほしい。そこで(暗黙のうちに)想定されていた「雇用」はここに描かれていたアライアンスの関係そのものではなかっただろうか。人間の本性を直視した、真っ当過ぎるぐらい真っ当な主張。原点回帰の書である。
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