内容紹介

『スタートアップ入門』(東京大学出版会)

  • 2019/07/04
スタートアップ入門 / 長谷川 克也
スタートアップ入門
  • 著者:長谷川 克也
  • 出版社:東京大学出版会
  • 装丁:単行本(300ページ)
  • 発売日:2019-04-27
  • ISBN-10:4130421514
  • ISBN-13:978-4130421515
内容紹介:
起業にするためには何が必要なのか? そして何を知っていればいいのか? 東京大学の人気講座・東京大学アントレプレナー道場で講義されている起業するための基礎知識を完全網羅.本郷バレーと呼ばれ,200社以上が設立した東大発スタートアップはどのような授業をしているのか,人気講座・はじめての入門書.
起業するためには何が必要なのか? 人気講座・東京大学アントレプレナー道場で講義されている起業するための基礎知識を完全網羅。本郷バレーと呼ばれ、200社以上の設立に繋がった東大発スタートアップはどのような授業をしているのか。人気講座から生まれた入門書のエッセンスを伝えます。

優秀な起業家の輩出は大学の社会的使命

私達が大学でアントレプレナーシップ教育を行なう最終的な目的は、世の中に大きな経済的インパクトをもたらすスタートアップ企業を立ち上げる優秀な起業家を世の中に送り出すことです。日本では相変わらず経済の中心は大企業が担うものだという感覚が支配的ですが、どんな大企業もスタートした時は小さなベンチャー企業だったはずです。経済発展のためには、次の世代に大企業に育つ可能性を秘めた新しい企業が常に生まれ続ける必要があり、その担い手となる優秀な起業家を輩出することは大学の大きな社会的使命だと私達は考えています。

本書では、ビジネスや経営に関する知識を全く持たない人を対象にして、大きな会社になることを目指して新しいビジネスを始めようとする際に知っておくべき様々な知識や手法を解説します。しかし、この本に書いてある知識を身につけたからといって起業家になれるわけではありませんし、会社を経営できるようになるわけではありません。この本を読んでも新しいビジネスのアイデアを生み出す方法はわかりませんし、起業する仲間を集める方法も書かれていません。

世の中には社長になることが目的で起業する人も居ますし、サラリーマンとして誰かの下で働くのは合わないからという理由で起業する人も居ますが、本書はそういう根っからの起業家向けに書かれた本ではありません。本書はむしろ「起業とかアントレプレナーシップとか、自分とは関係ないなあ、、、」と思っている人達にこそ読んで欲しいと思っています。

その理由は、これからの時代では誰もが「起業」をキャリアの選択肢として意識する必要があると考えるからです。大きな組織の中で個人が自分のやりたいことをやることは簡単ではありません。特に今までにない新しいものを生み出そうとする場合、既存の組織の中では様々な制約が多く、新しい組織を作る方がずっと敷居が低い場合が多くあります。大企業に就職したり大学院に進学する人も、将来、自分のやりたいことが見つかった時に起業を選択肢として考えられるように、学生時代にアントレプレナーシップやビジネスの基礎知識を身につけておいて頂きたいのです。

その意味では本書は、学生時代に起業やアントレプレナーシップに触れる機会のないまま職に就いた社会人の方にも是非読んで頂きたいと思っています。起業は、これからの時代のキャリアの選択肢として誰もが意識する必要がありますが、現実には実際に起業するタイミングは学生の時よりも社会人になってからの方が多く、また成功確率もその方が高いからです。

短い本書で起業や会社経営に必要となる基礎知識をすべて学習することは不可能です。この本の目的は、もし自分が起業することになったら、何を知っていなければならないのか? 何を勉強すべきか? 誰に何を聞く必要があるか? を理解して頂くことです。この本が、皆さんが起業やスタートアップに興味を持つきっかけになり、また、将来、皆さんが起業という選択肢を考えたときのToDoListの「目次」になれば、著者にとっては望外の喜びです。

誰もが起業という選択肢を持っておく必要性

東京大学で私達が開催している「アントレプレナー道場」の受講生の中で、就職をせずに起業する人はごく少数です。卒業した受講生の多くは大多数の学生さんと同じように就職します。起業しない理由は様々ですが、そもそも真剣に起業を検討するに値するようなアイデアがないことがほとんどです。ところが道場OB/OGの中には、社会人として仕事をする中で自分のやりたいことを見つけ、何年かの社会人経験を経て起業する人が少なからず居ます。その人達が始めるビジネスの中身が、学生のときにアントレプレナー道場で考えたアイデアであることはほとんどありませんが、学生のときに起業というキャリアの選択肢に触れ、起業の基礎知識が頭の片隅に残っていたことは、彼らや彼女らがサラリーマンをやめて起業を決断したことに大きな影響を与えていると私達は考えています。

このような道場OB/OGを見ていると、本来起業できるだけの十分な能力を持ちながら、起業という選択肢が自分にあることすら知らないまま大きな組織の中で悶々としている卒業生が数多く居るのではないかと推測しています。すべての卒業生が起業家になれるとも、また向いているとも思いませんが、少なくとも起業というキャリアの選択肢があることは、すべての学生さんに知っておいて頂きたいと考えています。むろん、学生のときにそのような選択肢を知る機会のなかった社会人の方も、今からでも遅くはありません。

起業家が起業するタイミングは様々です。自分の人生を賭けてやりたいことを見つけたときかもしれませんし、一緒に起業する仲間を見つけたときかもしれません。まず製品やサービスを作ってみて、これはビジネスになりそうだという手応えを感じたときかもしれませんし、初期資金を得る見込みが立ったときかもしれません。起業のタイミングが学生のうちに訪れれば就職せずに起業する場合もあるかもしれませんが、そのタイミングは社会人として何年か働いた後に訪れることの方が多いかもしれません。

現実には、今の仕事が嫌になったときとか、起業する以外に他の選択肢がなかったといった消極的な理由の場合もあると思います。いつがそのタイミングかは人それぞれですし、誰も事前にはそのタイミングを知ることはできません。しかし、学生の皆さんには、そのタイミングが訪れたときにはいつでも起業できるような能力と心構えを身に付けておいて欲しいと思います。

起業のリスクと大企業にずっと居ることのリスク

多くの皆さんが「起業なんて私には関係ない」と思う大きな理由の一つは、起業は大企業に勤めることよりもずっとリスクが大きいと皆さんが考えるからですが、本当にそうでしょうか? もし皆さんのご両親やその上の世代の人達が、定年まで一つの会社に勤めて十分な退職金をもらって優雅な老後を過ごしているとしたら、それは20世紀後半の日本企業が達成できた例外だと思うべき……というのが私の意見です。

その時代に戻りたいと思っているオトナは多いかもしれませんが、そんな古き良き時代に戻ることはないでしょう。もちろん、どんな企業も永続的に持続し成長することを目指しています。皆さんが就社する会社も真剣に永続することを目指しているでしょうが、実際に30年も40年も順調に成長し続ける企業は、残念ながら今後ますます減っていくでしょう。一つの企業に勤め続けることのリスクが今後ますます大きくなる中では、普通に就職する人であっても、いつでも起業できるような能力と心構えを身に付けておくことが必要なのです。

大企業でも既存事業の成長が鈍化してきたら新規事業を興していく必要がありますが、既存事業の延長線上ではなく全く新しい事業を興すのであれば、大企業の中での新規事業創出プロセスは起業家が新規事業を興すプロセスと似てきます。従って、皆さんが大企業に就職したとしても新規事業を興す立場に立つことになれば、アントレプレナーシップについて知っている必要があります。

本書で扱うビジネスの基礎知識の部分は、様々な要素から成るアントレプレナーシップの中の一部分でしかありません。むしろ、アントレプレナーシップの本質はその他の要素、すなわち、やりたいことを見つけ、強い意志を持って、仲間を集め、製品やサービスを作って売る部分にあると言っていいでしょう。本書では、やりたいことの見つけ方も、仲間の集め方も、製品の作り方も、サービスの売り方も取り上げていません。本書が扱う内容は起業を考える際に必須の知識ではありますが、アントレプレナーシップの一部でしかないことには注意して頂きたいと思います。

第1章のまとめ

・これから社会に出る皆さんは、いつでも起業できるような能力と心構えを身に付けておく必要がある。
・本当に自分の人生を賭けてやりたいことを見つけたときのために、誰もが起業という選択肢を持っておく必要がある。
・長い目で見れば、起業のリスクは大企業に何十年も居続けるリスクよりも大きいとは言えない。
・アントレプレナーシップは様々な要素から成り立っている。ビジネスの基礎知識を学ぶ本書の内容は、そのごく一部である。
スタートアップ入門 / 長谷川 克也
スタートアップ入門
  • 著者:長谷川 克也
  • 出版社:東京大学出版会
  • 装丁:単行本(300ページ)
  • 発売日:2019-04-27
  • ISBN-10:4130421514
  • ISBN-13:978-4130421515
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起業にするためには何が必要なのか? そして何を知っていればいいのか? 東京大学の人気講座・東京大学アントレプレナー道場で講義されている起業するための基礎知識を完全網羅.本郷バレーと呼ばれ,200社以上が設立した東大発スタートアップはどのような授業をしているのか,人気講座・はじめての入門書.

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