自著解説
『オンライン・ファースト: コロナ禍で進展した情報社会を元に戻さないために』(東京大学出版会)
このほど、東京大学からの提言の書『オンライン・ファースト』が刊行されました。刊行にあたって、執筆者のお一人である中村宏先生(システム情報学専攻)に本書の趣旨をご執筆いただきました。
しかし、本書のオンラインファーストはずっと身近な話であり、日常における他者とのコミュニケーションの手段として、オフライン(対面)ではなくオンラインをまず考えようね、ということである。もちろん、このようなことを考えることとなった契機はこのコロナ禍で、オフラインが社会的に制約されるという、およそ初めての事態に我々が直面したからである。
とはいえ、オフラインなのかオンラインなのかは手段の話であり、移動の手段を電車にするか車にするか程度の話と言えなくもない。コストと利便さで決めればいい(最近はCO2排出量も大事です)のであり、実際、便利な手段が出てくればそれを皆が使うわけで、昔で言えばポケベルが若者に支持され、今はスマホでSNSである。
では、なぜ大人がこの本を書くかというと、コミュニケーションは社会活動の根幹であり、そして2章で触れられているが「制度と業務は一体的に設計すべき」であるのに、業務の一部の手段だけをオンライン化しようとするから、かえって無駄な作業が増えるという弊害も生じ、我々の社会がより便利になる千載一遇の機会を失いかねないからである。
7章で触れているがオンラインは便利である。テレワークにせよオンライン講義にせよ、なんといっても「いつでもどこでも」は、ドラえもんの「どこでもドア」さながらの、最強の武器である。出勤、通学という移動の時間が不要で、満員電車ともおさらばだ。CO2排出も抑えられる。
対面でしか伝わらないことがある、という話もあるが、伝えたいことがはっきりしていれば、オンラインでも伝わる。伝える側が事前に入念に準備するし、聞く側も各自が集中できる環境で参加できるから、というのが私の経験則だ。オンラインに不向きな、とりあえず集まって考えよう、という非効率な会議を一掃できるという副産物もある。
さまざまな場面をオンラインにするには、何がやりたいのかをまず明確にして、制度や業務を再設計する必要があるし、そのためには、どこまで何ができるのかという最先端のIT技術をわかる必要があるし、あるべき社会の在り方も再考する必要があるが、そのあたりも本書では触れている。現代版「どこでもドア」を使ってみたい方、是非本書を読んでいただきたい。
[ 書き手]中村宏(東京大学大学院教授)
なぜ、オンライン・ファーストなのか?
○○ファースト、というのは最近の流行であり、確か3年前くらいの都民ファーストに始まり、そのあとアスリートファースト、それからアメリカファースト、あたりがよく知られているだろうか。○○ファーストはまず○○のことを尊重しよう、大事に考えようね、ということなのだが、いずれも為政者からの発信だったのでちょっと身構えてしまうかもしれない。しかし、本書のオンラインファーストはずっと身近な話であり、日常における他者とのコミュニケーションの手段として、オフライン(対面)ではなくオンラインをまず考えようね、ということである。もちろん、このようなことを考えることとなった契機はこのコロナ禍で、オフラインが社会的に制約されるという、およそ初めての事態に我々が直面したからである。
とはいえ、オフラインなのかオンラインなのかは手段の話であり、移動の手段を電車にするか車にするか程度の話と言えなくもない。コストと利便さで決めればいい(最近はCO2排出量も大事です)のであり、実際、便利な手段が出てくればそれを皆が使うわけで、昔で言えばポケベルが若者に支持され、今はスマホでSNSである。
では、なぜ大人がこの本を書くかというと、コミュニケーションは社会活動の根幹であり、そして2章で触れられているが「制度と業務は一体的に設計すべき」であるのに、業務の一部の手段だけをオンライン化しようとするから、かえって無駄な作業が増えるという弊害も生じ、我々の社会がより便利になる千載一遇の機会を失いかねないからである。
7章で触れているがオンラインは便利である。テレワークにせよオンライン講義にせよ、なんといっても「いつでもどこでも」は、ドラえもんの「どこでもドア」さながらの、最強の武器である。出勤、通学という移動の時間が不要で、満員電車ともおさらばだ。CO2排出も抑えられる。
対面でしか伝わらないことがある、という話もあるが、伝えたいことがはっきりしていれば、オンラインでも伝わる。伝える側が事前に入念に準備するし、聞く側も各自が集中できる環境で参加できるから、というのが私の経験則だ。オンラインに不向きな、とりあえず集まって考えよう、という非効率な会議を一掃できるという副産物もある。
さまざまな場面をオンラインにするには、何がやりたいのかをまず明確にして、制度や業務を再設計する必要があるし、そのためには、どこまで何ができるのかという最先端のIT技術をわかる必要があるし、あるべき社会の在り方も再考する必要があるが、そのあたりも本書では触れている。現代版「どこでもドア」を使ってみたい方、是非本書を読んでいただきたい。
[ 書き手]中村宏(東京大学大学院教授)
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