書評

『デジタル価値創造―未来からのモノづくり原論』(NTT出版)

  • 2017/10/05
デジタル価値創造―未来からのモノづくり原論 / 馬場 靖憲
デジタル価値創造―未来からのモノづくり原論
  • 著者:馬場 靖憲
  • 出版社:NTT出版
  • 装丁:単行本(244ページ)
  • ISBN-10:4757120044
  • ISBN-13:978-4757120044
内容紹介:
本書は、日本企業が蓄積してきた技術資産を、利益を生む製品、またサービスに変換する「価値創造の方法論」を読者に提供することをその目的とする。まず、著者が二一世紀のモノづくりの価値創造に対して一定の仮説を立て、その後に、その仮説から現状を観察し、そこに二一世紀モデルの先行事例として浮かび上がる産業分野、個別プロジェクトを分析するというアプローチを採用した。
数年前から、モノづくりの現場に新しい動きが出てきている。開発期間の短縮、コスト削減、製品の品質改善などを求めて、日本企業はさまざまに試行錯誤を重ねている。なかでも、目立っているのが情報技術の徹底活用である。距離や時間を超えた情報伝達は、コミュニケーションの改善にとどまらず、開発そのものの様式に変化をもたらしている。ただし、そうした最先端のモノづくりのあり方に対峙するかのように、「一人生産方式」のような人間重視を旗印に掲げたモノづくりのあり方に注目が集まっているのもたしかである。

このように、日本のモノづくりの現場が大きく揺れているのは、従来型の工業社会がポスト工業社会へ移行しつつあることと無関係ではない。

著者は、「日本企業の技術・組織・マネジメント、そして企業文化が、ポスト工業社会における新しい価値創造に対応するのが難しいのではないか、そして、そのことこそが近年の日本産業に閉塞感をもたらしている最大の原因ではないか」と、問題提起している。

デジタル化された情報を素材とする、新しい価値創造の可能性を秘めた例として、著者は、ボーイング777の開発で実践された、コンカレント・エンジニアリングをあげる。ボーイング社はコンカレント・エンジニアリングを推進するにあたり、”Learn Japanese Way”という活動を展開し、トヨタはじめ、造船各社を視察するなどして、日本企業の開発手法を学習したのは有名な話だ。

1990年、日本からは三菱重工、川崎重工、富士重工が参加するなど、この国際共同開発は各国企業が勢揃いしてスタートした。当時、私は、この大規模なモノづくりのあり方を米国シアトルの現場で取材した経験がある。まだ、インターネットがそれほど騒がれていなかった時代、各国をネットワークで結び、同時並行的に仕事を進める手法が、強く印象に残った。

ただ、日本がモノづくりに自信を持っていただけに、わが国の生産現場では、すべてコンピュータ・ネットワークのもとに仕事を進めるコンカレント・エンジニアリングの導入に対し、反発もあったし、混乱も起こった。しかし、日本企業はデザイン・インで培った現場力をもとに、受け入れていった。その後も川崎重工をケースに、私自身、取材した。導入が成功した理由について、「米国企業が従来得意としてきた情報技術(システム)系アプローチと、日本企業が得意とする人間(チームワーク)系のそれをうまく組み合わせて対処したことに大きく依存する」と、著者は分析している。同感である。

しかし、現在、コンカレント・エンジニアリングが必ずしも日本企業に広く導入されているとは限らない。原因は、日本企業の組織、マネジメント、開発文化にある、と、著者は考える。「技術を競争力の中核として考え、技術資産の蓄積に励んできた多くの日本企業は、世界の最先端技術を保有しながら、それを利益に結びつける『デジタル価値創造』のための方法論を組織的に確立することに成功していない」と指摘するのだ。

われわれは果たして、ポスト工業社会において、デジタル価値創造をしていくことができるのか。本書には、日本型モノづくりの手法を擁護しながら、デジタル価値創造をしていくためには改革が必要だとする主張が複雑に入り交じっている。そこが魅力だ。

デジタル時代のモノの考え方、組織のあり方、経営のあり方を考えるうえで、格好の書である。
デジタル価値創造―未来からのモノづくり原論 / 馬場 靖憲
デジタル価値創造―未来からのモノづくり原論
  • 著者:馬場 靖憲
  • 出版社:NTT出版
  • 装丁:単行本(244ページ)
  • ISBN-10:4757120044
  • ISBN-13:978-4757120044
内容紹介:
本書は、日本企業が蓄積してきた技術資産を、利益を生む製品、またサービスに変換する「価値創造の方法論」を読者に提供することをその目的とする。まず、著者が二一世紀のモノづくりの価値創造に対して一定の仮説を立て、その後に、その仮説から現状を観察し、そこに二一世紀モデルの先行事例として浮かび上がる産業分野、個別プロジェクトを分析するというアプローチを採用した。

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初出メディア

中央公論

中央公論 1999年1月

雑誌『中央公論』は、日本で最も歴史のある雑誌です。創刊は1887年(明治20年)。『中央公論』の前身『反省会雑誌』を京都西本願寺普通教校で創刊したのが始まりです。以来、総合誌としてあらゆる分野にわたり優れた記事を提供し、その時代におけるオピニオン・ジャーナリズムを形成する主導的役割を果たしてきました。

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