書評

『長江は知っている』(集英社)

  • 2017/10/20
長江は知っている / 雁 翼
長江は知っている
  • 著者:雁 翼
  • 翻訳:入谷 萌苺
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(294ページ)
  • 発売日:1998-12-06
  • ISBN-10:4087733106
  • ISBN-13:978-4087733105
内容紹介:
中国の文化大革命は、おそらく人類史上もっとも残酷な、人間の心を破壊した戦争であったと思う。だが、文革は、破壊したはずの魂が放った炎によって、最後には焼き焦がされた。その事実は、歴… もっと読む
中国の文化大革命は、おそらく人類史上もっとも残酷な、人間の心を破壊した戦争であったと思う。だが、文革は、破壊したはずの魂が放った炎によって、最後には焼き焦がされた。その事実は、歴史に刻まれなければならぬ。なぜなら、もっとも残虐なファシズムによる強権政治が、やさしい人間の魂の光のなかで、滅んでいったのだから…。それが著者がこの作品で、自分の三年間の囚人体験を書いた理由である。中国文化大革命の嵐を生きぬいた詩人がいま初めて明かす、胸に迫る「命の記録」。
ある日天から地に落ちた。詩人である著者がなんの理由もなく追われる身になり、逃亡のすえ捕らえられ、刑務所に入れられた。四カ月後、出所したかと思うと、今度は生き地獄に突き落とされた。ひどいリンチを受け、日々過酷な強制労働をさせられた。

文化大革命を告発する本の例に漏れず、本書にも身の竦(すく)むような暴力が克明に記録されている。文革中は男性よりも女性のほうが凶暴だったと言われているが、著者の体験もその点を証明している。

読みながら人間性とはなにかについて考えさせられた。極限状況に追い込まれると、人間は自らを守るためにいかに攻撃的になるか、まわりの人に対する態度がいかに豹変するかが、生き生きと描かれているからだ。

著者は幸い名誉回復された。しかし彼といっしょに投獄された囚人たちはどうなっただろうか。あの「強姦犯」の女性はいまどこにいるのか。罪を犯したとはいえ、人間としての尊厳はそこまで踏みにじられてよいのだろうか。

【この書評が収録されている書籍】
本に寄り添う Cho Kyo's Book Reviews 1998-2010 / 張 競
本に寄り添う Cho Kyo's Book Reviews 1998-2010
  • 著者:張 競
  • 出版社:ピラールプレス
  • 装丁:単行本(408ページ)
  • 発売日:2011-05-28
  • ISBN-10:4861940249
  • ISBN-13:978-4861940248
内容紹介:
読み巧者の中国人比較文学者が、13年の間に書いた書評を集大成。中国関係の本はもとより、さまざまな分野の本を紹介・批評した、世界をもっと広げるための"知"の読書案内。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

長江は知っている / 雁 翼
長江は知っている
  • 著者:雁 翼
  • 翻訳:入谷 萌苺
  • 出版社:集英社
  • 装丁:単行本(294ページ)
  • 発売日:1998-12-06
  • ISBN-10:4087733106
  • ISBN-13:978-4087733105
内容紹介:
中国の文化大革命は、おそらく人類史上もっとも残酷な、人間の心を破壊した戦争であったと思う。だが、文革は、破壊したはずの魂が放った炎によって、最後には焼き焦がされた。その事実は、歴… もっと読む
中国の文化大革命は、おそらく人類史上もっとも残酷な、人間の心を破壊した戦争であったと思う。だが、文革は、破壊したはずの魂が放った炎によって、最後には焼き焦がされた。その事実は、歴史に刻まれなければならぬ。なぜなら、もっとも残虐なファシズムによる強権政治が、やさしい人間の魂の光のなかで、滅んでいったのだから…。それが著者がこの作品で、自分の三年間の囚人体験を書いた理由である。中国文化大革命の嵐を生きぬいた詩人がいま初めて明かす、胸に迫る「命の記録」。

ALL REVIEWS経由で書籍を購入いただきますと、書評家に書籍購入価格の0.7~5.6%が還元されます。

初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 1999年3月21日

毎日新聞のニュース・情報サイト。事件や話題、経済や政治のニュース、スポーツや芸能、映画などのエンターテインメントの最新ニュースを掲載しています。

  • 週に1度お届けする書評ダイジェスト!
  • 「新しい書評のあり方」を探すALL REVIEWSのファンクラブ
関連記事
張 競の書評/解説/選評
ページトップへ