書評
『死神の精度』(文藝春秋)
断言いたしましょう。来年一月に明らかになる第一三四回直木賞の受賞作品が、早くも決定いたしました。伊坂幸太郎『死神の精度』。これまで『重力ピエロ』『チルドレン』『グラスホッパー』と三度候補に挙がり、そのたびに一定の評価は受けながらも授賞を先送りにされてきた伊坂さんですが、死神を語り手においたこの新シリーズで、めでたく一五八人目の直木賞作家となるはず。だって、傑作なんですもん。(ALL REVIEWS事務局注:第134回直木賞は東野圭吾さん『容疑者Xの献身』の受賞でした。)
死神といっても、絵画でよく描かれてるみたいな大鎌ふりかざした気味の悪い骸骨とはまったく違います。まず、直接命を奪ったりしません。上層部から命じられるまま、ある人物の調査を一週間程度行って死を実行するのに適しているかどうかを判断し、報告する。よほどのことがない限りは「可」の報告をする。それが死神の仕事なのです。見た目だって、その時々の調査にふさわしいルックス。音楽が大好きで、人間の死には興味がないけれど、人間が死に絶えてミュージックがなくなってしまうことだけはつらいと考えているので、表題作ではある女の子の調査で常ならぬ温情を見せてしまいます。また、言葉の微妙なニュアンスや比喩、冗談がまったく通じないために、たとえば「年貢の納め時」という言葉を聞くと「年貢制度は今もあるのか? かなり昔にそういう制度を耳にした覚えはあったが、最近ではあまり聞かない」なんて受け答えをしてしまうなど、相手から不審がられることが多々あり、その頓珍漢ぶりが得も言われぬユーモアをかもすのです。
読後感爽快な表題作ほか、ハードボイルド風味あり、本格ミステリーの大ネタのひとつ嵐の山荘風味あり、恋愛小説風味あり、ロードノベル風味あり、人情噺風味ありと、さまざまに趣向をこらした六つの物語を収めた連作短編集。ある物語の登場人物が、別の物語の中にちょっとだけ顔をのぞかせるという、伊坂作品ファンならお馴染みになっている仕掛けによって、最後に置いた「死神対老女」で、ある大きな感動へと読者を導く構成も見事なので、順番どおりに読んでいくのをおすすめします。クールなんだけど、ちょっとズレてるキャラクターが魅力の死神を狂言回しに描かれる、悲喜こもごもの人生模様。死を扱いながら、哀しみだけに落とし込まない伊坂さんの軽妙な筆致が素晴らしい傑作シリーズの誕生なのです。
【この書評が収録されている書籍】
死神といっても、絵画でよく描かれてるみたいな大鎌ふりかざした気味の悪い骸骨とはまったく違います。まず、直接命を奪ったりしません。上層部から命じられるまま、ある人物の調査を一週間程度行って死を実行するのに適しているかどうかを判断し、報告する。よほどのことがない限りは「可」の報告をする。それが死神の仕事なのです。見た目だって、その時々の調査にふさわしいルックス。音楽が大好きで、人間の死には興味がないけれど、人間が死に絶えてミュージックがなくなってしまうことだけはつらいと考えているので、表題作ではある女の子の調査で常ならぬ温情を見せてしまいます。また、言葉の微妙なニュアンスや比喩、冗談がまったく通じないために、たとえば「年貢の納め時」という言葉を聞くと「年貢制度は今もあるのか? かなり昔にそういう制度を耳にした覚えはあったが、最近ではあまり聞かない」なんて受け答えをしてしまうなど、相手から不審がられることが多々あり、その頓珍漢ぶりが得も言われぬユーモアをかもすのです。
読後感爽快な表題作ほか、ハードボイルド風味あり、本格ミステリーの大ネタのひとつ嵐の山荘風味あり、恋愛小説風味あり、ロードノベル風味あり、人情噺風味ありと、さまざまに趣向をこらした六つの物語を収めた連作短編集。ある物語の登場人物が、別の物語の中にちょっとだけ顔をのぞかせるという、伊坂作品ファンならお馴染みになっている仕掛けによって、最後に置いた「死神対老女」で、ある大きな感動へと読者を導く構成も見事なので、順番どおりに読んでいくのをおすすめします。クールなんだけど、ちょっとズレてるキャラクターが魅力の死神を狂言回しに描かれる、悲喜こもごもの人生模様。死を扱いながら、哀しみだけに落とし込まない伊坂さんの軽妙な筆致が素晴らしい傑作シリーズの誕生なのです。
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