書評

『流』(講談社)

  • 2018/06/11
流  / 東山 彰良
  • 著者:東山 彰良
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(512ページ)
  • 発売日:2017-07-14
  • ISBN:4062937212
内容紹介:
台湾で不死身のはずの祖父が何者かに殺された。 無軌道に生きる十七歳の主人公にはわからないことばかり。直木賞受賞の青春小説。

祖父の死を追う青年は大陸へと導かれてゆく。台湾で生まれた著者の猥雑で清冽な「青春」

中華民国の初代総統である蒋介石が没した一九七五年、台北市生まれの十七歳だった〈わたし〉こと葉秋生(イェチョウシェン)はもう一つの死に直面する。自分を可愛がってくれた祖父・葉尊麟(イェヅゥンリン)が、何者かによって惨殺されたのだ。その体験は秋生の中で消しがたいしこりとなって残った。やがて事件への関心が彼を、父祖の地である大陸へと誘うことになる。

東山彰良は殴り書きされたグラフイティー・アートのような猥雑さと、新緑の芽吹きを思わせる清冽な詩情とを併せ持った作家だ。第百五十三回直木賞の候補作となった『流』は、作者がその資質を全開にして書いた渾身の力作である(ALL REVIEWS事務局注:本書評執筆時期は2015年7月)。東山は台湾生まれで、幼少期を台北市で過している。秋生は、生年こそ異なるが作者自身のプロフィールを重ね合わせることが可能な主人公だ。その意味で自己言及の要素もある作品なのである。

台湾はかつて日本の植民地的支配を受け、大戦後は国共内戦によって大陸から切り離された。そうして刻まれた負の記憶が生々しく残る地が舞台である以上、本書は戦争小説としての性格を色濃く持つ。同時に、十七歳から二十六歳までの流転の青春を描いた作品でもあり、年上の女性との恋愛、突如として放り込まれることになる軍役など、魅力的なエピソードには事欠かない。秋生の動揺や懊悩(おうのう)のひとつひとつが、まるで我が事のように心に沁みこんでくるのだ。

台湾では幽鬼がひとびとの背後を当たり前のように徘徊し、ゴキブリは日本のそれとは桁違いの生命力を持っている。そうしたエキゾチシズムを楽しむ小説でもある。高度成長期から爛熟のバブル経済期へと移行しつつある日本のサブカルチャーが補色のような形で背景にあしらわれるという楽しさもある。中森明菜『セカンド・ラブ』が絶妙のタイミングで流されるサービスの良さなど、細部に至るまで文章に無駄がないのである。

複雑で多面的であり、かつどの面も輝きに満ちている。そして呆れるほど自由なのだ。胸を撃ち抜かれるような感覚をひさびさに読書で味わった。
流  / 東山 彰良
  • 著者:東山 彰良
  • 出版社:講談社
  • 装丁:文庫(512ページ)
  • 発売日:2017-07-14
  • ISBN:4062937212
内容紹介:
台湾で不死身のはずの祖父が何者かに殺された。 無軌道に生きる十七歳の主人公にはわからないことばかり。直木賞受賞の青春小説。

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初出メディア

週刊現代

週刊現代 2015年7月25日|8月1日合併号

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