選評
『罪の終わり』(新潮社)
第11回(2016)「中央公論文芸賞」
受賞作=東山彰良「罪の終わり」/他の選考委員=浅田次郎、林真理子、村山由佳/主催=中央公論新社/発表=「婦人公論」2016年10月25日号小説家のモラル
東山彰良さんの最大の長所は、海外の小説をよく研究してその骨法を取り入れながら、ストーリーテリングの巧みさが常に際立っている点にあると思います。形式的な工夫と筋の運びというものはなかなか両立しないものですが、このありうべからざるバランスを取ることに見事に成功しているようです。今回は、『ブラックライダー』の前日譚を語るという難易度の高い試技でした。なぜ、難易度が高いかというと、最後の着地点があらかじめ決められているため、それを外して着地することは絶対に許されないからです。東山さんはあえてそうした難行に挑戦する、勇気のあるチャレンジャーだといえます。
小説家というのは、だれかが決めたルールがあるわけでもなく、自分で設定したルールを自分で守るという点に特徴があります。これが小説家のモラルというものです。安易なルールを設定しておけばクリアーすることは容易ですが、それでは小さくまとまった小説家にしかなれません。読者に期待を持たせ続けるには、自己設定ルールのハードルを少しずつでも上げていくことが必要なのです。
東山さんは久々に登場したスケールの大きな、つまり小説家のモラルに忠実な作家です。主人公のナサニエルと同じく茨の道を歩むことになりますが、今後もしっかりとこのモラルを守り続けていかれることを期待します。
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