たしかな手腕で読者層を広げる試み
平成28年春、というから今から2年前。歴史時代小説界に風穴を開けることを目的として、新進気鋭の作家たちが新しいグループを立ち上げた。その名に用いられたのが「操觚(そうこ)」の語で、「操觚の会」という。「觚」は四角い木札。紙のなかった古代中国ではこれに文字を書いたところから、觚を操るとは「詩文を作成する」「文筆に従事する」の意になる。会員は昨年11月末現在16人で会長は鈴木英治。互いに影響し合い、切磋琢磨(せっさたくま)するのはもちろん、トークイベントや書店でのサイン会などを定期的に開催し、読者とのふれあいにも力を入れているという。自分も細々と本を書いているので実感しているが、ともかく本が売れない。良い本だから売れるとは限らないし、では売れている本はすべて良い本かというと、それがそうでもない。明治以来の「読書する習慣」がほとんど壊れてしまっている現在、ペンのみで生活の資を得ようとする作家さんたちは、それはたいへんだろうと思う。その意味からすると、イベントにも力を入れて読者層を広げていこうという方法はまことに時宜を得たものといえる。がんばってもらいたい、と心から思う。
本書はその「操觚の会」メンバーの7人が幕末動乱期の七つの暗殺に挑む。坂本龍馬暗殺のように、誰もが知る事件がある。塙忠宝(はなわただとみ)暗殺のように、マニア向けの事件もある。有名な事件の一端をぐいっとえぐり取るような書き方がある(桜田門外の変)。それは歴史の事実か?と首をひねる事件を大胆に推理していく書き方もある(孝明天皇毒殺)。バリエーションは豊かなのだが、どれにも共通する要素がある。それは「たしかな手腕」。唸(うな)らせる、読ませる。「ぼく」だけの才能に出会える、こういう本は大歓迎だ。