宇宙の始まりはこんなことだったと人間が考えたことが実際に観測してみたらその通りだったとか、人工的に山羊を拵(こしら)えたなんてな話を聞くにつけ、人間というのは偉いものだ、と思うが、その一方で、犯罪を犯さないまでも、賭博(とばく)にのめり込んで一生を台無しにしたなどと聞くと、人間というのはなんたら阿呆(あほう)なものかと思うのであって、いったいどっちが本当なのかと思うが、どちらも本当なのだろう。
この小説は、そうした人間の、自戒していても後で思い出して、わあっ、と叫びたくなるような愚行を演じてしまう、みたいな愚かさを直視したうえで、苦行のような無駄な努力によって、これを乗り越えようとする人物の話で、その姿は荒野で苦しむ修行者のようで、それを書けばどうしたってこうなってしまい、苦しいので通常は書かない、みたいなところを描いていて、その点についてよい小説であると思った。