書評
『大きな森の小さな家 ―インガルス一家の物語〈1〉』(福音館書店)
大きな森の丸太小屋で過ごすのが、僕の夢だった
自分だけの秘密基地をつくりたい、といつも思っていた。基地をつくって何をするか。食糧をしまい込むのだ。『おおきなきがほしい』とか『ロビンソン・クルーソー』とか、そういう本をいつもわくわくしながら読んでいた。『シートン動物記』でもお気に入りは、灰色グマが冬ごもりのために食べ物を集める場面だ。秘密基地派の僕にとっては、実りの秋は同時に冬ごもりに備える季節でもある。やがて来る厳冬の前に、美味(おい)しいものをたくさん蓄えるのだ。そして、狭い空間でぬくぬくしながらぱくぱく食べるのだ――そんな密(ひそ)かな願望を文章で満たしてくれたのが、ローラ・インガルス・ワイルダーの『大きな森の小さな家』だった。
これはアメリカ開拓時代の丸太小屋での暮らしを描いた児童小説だ。舞台はウィスコンシン州の森のなか。そこで自然の恵みを頂戴し、保存食にして美味しくいただくということが、全編にわたって書かれているのである。小学校2年生のときに読んだが、冒頭を見ただけで「これは私のために書かれた本である」と直感したものだ。だって、最初から猟で獲(と)ったシカを燻製(くんせい)肉にしてとっておくという話なんだもん。
出てくる食べ物がとにかく全部美味しそうだ。たとえば収穫で忙しくなる秋に食卓に並ぶのは、カボチャとトウモロコシである。オーブンで焼いたカボチャの内側にバターを塗り、スプーンで身をすくって食べる! 牛乳やメープル・シロップをかけた皮むきトウモロコシ! ああ、いいなあそれ。料理の過程が詳細に書かれているのも魅力のひとつで、読むと脳裏に情景が再生される。おかげで“大きな森”はとても懐かしい場所になった。ウィスコンシン州なんて、行ったこともないのに。
主人公のローラが姉のメアリーと一緒に過ごす屋根裏部屋が、静謐(せいひつ)で、心安らぐ場所として描かれているのも気に入った。雨が丸太の屋根を叩(たた)く音を聞きながらそこで遊ぶ時間は、どんなに幸福なものだったろうと、今も羨(うらや)ましく思い浮かべるのである。
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