書評
『マイ遺品セレクション』(文藝春秋)
「死ぬまで捨てない」その姿勢にときめく
最近では、生前整理や断捨離がやたらと推奨されているが、捨てる行為が「残したモノを大切にする」という精神性とたちまち結びついていく感じが気に食わない。えっ、モノを捨てまくってんじゃん、とのツッコミには応えてくれない。シンプルな生活を実現したい人に対する、極めてシンプルな問いなのに。とにかく収集、とにかく発表するみうらじゅんほど、モノを大切にしている人はいない。その姿勢にときめく。とにかく何でもとっておく。これまで集めてきたコレクションを「マイ遺品」と呼ぶことで、死ぬまで捨てるものか、という覚悟を、自分にも他人にも植え付けさせる。
本書では56項目の遺品が紹介されているが、カスハガ(カスみたいな風景の絵ハガキ)、ムカエマ(ムカムカする絵馬)といった比較的知られたモノだけではなく、「バッグ・オブ・エイジ」(文具屋の店先にぶら下る謎の英字が描かれた紙袋)など、静かに収集してきたモノが混ざり込んでいて嬉(うれ)しい。
みうらの凄(すご)みは、収集癖だけではなく、新しい概念を作り、その概念に自分を従わせるストイックさにある。「自分には絶対、向いてないな」と思う映画にわざわざ出かけてパンフを収集、土砂崩れ防止用壁を「ワッフル」と名付けて撮りに行く。1日数本しか来ないバスの時刻表を「地獄表」と名付けて味わう。
便利な世の中、シンプルな世の中が極まると「どうでもいいこと」が言えなくなる。「どうでもいいモノ」が置いておけなくなる。その窮屈さにそろそろ気づいているのに、みんな気づかないふりをしている。モノを捨てないなんて、逆に凄いと言われるのかもしれないが、逆じゃなくて、こっちが正面であり、直球であり、素直である。モノに執着しなくてどうする。