書評

『社会学史』(講談社)

  • 2019/06/03
社会学史 / 大澤 真幸
社会学史
  • 著者:大澤 真幸
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(640ページ)
  • 発売日:2019-03-19
  • ISBN:4062884496
内容紹介:
社会学者が、社会学の内部から社会学の通史を語り下ろした!現代社会をよりよく生きるために必須の知恵がすべてこれ1冊にある。

社会を思考するスリル存分に

デュルケーム、ジンメル、ヴェーバーら定番の大学者から、グロティウス、ホッブズ、ルソーら社会学の前史にあたる人びと、超大物のマルクス、フロイト、さらにはフーコー、ルーマンら現代の理論家まで、知の山脈の全貌を明らかにする本格的で正統な社会学史の登場だ。

本書の特長は第一に、学者のそれぞれの独創の核心を的確に掴(つか)み切っていること。第二に彼らがそう考える必然を、自在な筆致で読者に追体験させてくれること。第三に、彼らの仕事が合わさって近代社会の全体を包む大きな図柄になるさまを、描き出していること。文章も平易で、満点の出来栄えである。

著者大澤氏は言う、社会学とは《近代社会の自己意識》にほかならない。なぜこの社会はこうなのか。キーワードは偶有性である。不可能(ありえない)でも必然(これしかない)でもなく、たまたまこのようであるのが偶有性。人びとが自由に選び取ったはずの社会が、抑圧的になっているのはなぜか。その原因を突きとめ、よりよい社会を構想するのが社会学だ。

社会学史はふつう、一九世紀から始まる。本書はそれ以前、啓蒙(けいもう)と理性の時代の社会契約説(特にホッブズとルソー)にも目を配る。また、社会学に収まらないが決定的に重要なマルクスとフロイトの業績にもたっぷり紙幅を割く。カントやヘーゲル、レヴィ=ストロースなど、哲学・思想とのつながりも丹念に追う。ここまで厚みと奥行きのある社会学史は、現代思想にも精通する大澤氏でなくては書けない仕事だろう。

社会学の対象は、社会だ。では社会はどういうものなのか。理解社会学を唱えたヴェーバーは言う、社会は行為からなる。行為には、意味がある。意味はモノと違い、観察できず、理解するしかない。では意味を科学的に扱えるのか。ヴェーバーもパーソンズも、この問題と格闘した。それに続く意味学派も試行錯誤したが、結論はみえなかった。社会学には、物理学や経済学なら備わっている、標準理論が見当たらない。それは社会学が、同時代を丸ごと相手にするという無謀な課題を引き受けているからである。

二○世紀後半の、構造主義以後の時代の社会学を代表する両雄(ツインピークス)として大澤氏は、ニクラス・ルーマンとミシェル・フーコーを挙げる。ルーマンはパーソンズのもとで学んだのち、オートポイエーシス(自己創出性)の理論に触発され、独自の社会システム論を編み出した。社会システムの要素は、コミュニケーション。要素はシステムによって生み出される。ならば社会は、自己創出するいくつもの社会システムの複合である。いっぽうフーコーは、古典時代から近代にかけての言説のあり方を考察する言説分析、さらには、言説の配置から権力の作用を検出する権力分析を創案し、哲学、社会学などに広く影響を与えた。ルーマンもフーコーも、近代の思考の枠にとらわれず、近代社会の成立に新たな見取りを与える、重要な仕事をなしとげた。

だが、と大澤氏は言う。ルーマンもフーコーも、近代社会を外部から観察するだけの無力な傍観者に止まっていないか。その限界を自覚し、乗り越えようともがきながら果たせなかったのではないか、と。著者はその限界を乗り越えるヒントを与えて、終章を閉じている。

本書は社会学史のかたちを借りた、社会学の理論書である。これから社会学を学びたいのなら、誰もがまず手元に置くべきだ。日本で、いや世界でも有数の学説史がここにある。どの頁(ページ)からも、社会を思考するスリルが存分に堪能できるだろう。
社会学史 / 大澤 真幸
社会学史
  • 著者:大澤 真幸
  • 出版社:講談社
  • 装丁:新書(640ページ)
  • 発売日:2019-03-19
  • ISBN:4062884496
内容紹介:
社会学者が、社会学の内部から社会学の通史を語り下ろした!現代社会をよりよく生きるために必須の知恵がすべてこれ1冊にある。

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初出メディア

毎日新聞

毎日新聞 2019年5月5日

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