書評
『自民党と公務員制度改革』(白水社)
背筋が凍る、近代日本の衰亡史
本書が対象とする時期は2008年2月から公務員関連法案の廃案が決まる翌年7月までだ。著者は「古い時代の政治を取り扱っている」と謙遜するが、決してそんなことはない。評者は10年9月から12年末まで内閣府大臣官房審議官、内閣官房内閣審議官の職にあり、本書が指摘するような事態を目のあたりにして愕然(がくぜん)としたからである。本書には、01年の公務員改革に派遣された民間職員による回顧録が出てくる。08年の国家公務員制度改革推進本部事務局に配属された民間出身者は、そこに描かれた「戦争」のような縄張り争いに、「背筋が凍るような思い」をするが、実際、出身官庁の異なる幹部間に重大な亀裂が入るのを目の当たりにして、「腰が抜ける思いがした」。
福田内閣の閣僚の一人は、総理を突然の辞任に追い込んだ原因は「官僚のサボタージュ」だという。こうした例は評者が民主党政権下でまさに見たり聞いたりしたことである。元総理の一人から「一部官僚にサボタージュがあった」と直接聞いた当時は耳を疑ったが、自民、民主政権にかかわらず宜(むべ)なるかなである。
本書をよむと、「私には公務員に相応(ふさわ)しい人事制度とはどのようなものなのかついに分からなかった」という十数年前の回顧録に、つい相槌(あいづち)を打ちたくなり、暗澹(あんたん)たる思いになる。「誰もがその必要性を認識する」ような経済対策を打ち出している間に、「公務員の人事に関する権限を政治の側に再配分しようという試みであり、官僚制全体を相手」にする公務員制度改革は先送りとなる。
「政治家がしっかりすれば今でも政治主導になる。政治家がしっかりしないから役人主導になる」というような生易しい問題ではない。官僚が肝心なところでサボタージュする一方、人事院は人事制度に関して「政治側の介入」を退けようとする。本書は近代日本の衰亡史である。
朝日新聞 2013年10月13日
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