書評

『文明と文化の思想』(白水社)

  • 2017/07/04
文明と文化の思想 / 松宮 秀治
文明と文化の思想
  • 著者:松宮 秀治
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(303ページ)
  • 発売日:2014-07-25
  • ISBN-10:4560083754
  • ISBN-13:978-4560083758
内容紹介:
それまで存在しなかった価値体系を創出するために案出された文明と文化の概念から、人間が神となった西欧近代を問い直す。

新しい神話を生んだ西欧近代

評者が漠然と感じていたグローバリゼーションなどの不気味さの正体を知らしめてくれたのが、前著『ミュージアムの思想』(2003年)と『芸術崇拝の思想』(08年)だった。第3弾の本書は、西欧近代の価値観の本質とその限界を解き明かしている。

西欧近代思想が世界を席巻したのは、神話的な根拠を失った善や正義に、「進歩」と「文明」「文化」という概念を通して、時代に即応するような「絶対性を与えることができた」からだと著者はいう。

著者によれば、「進歩」の観念に沿って「人間の世俗活動」を、物質的豊かさである「文明」と、精神的内面的活動の成果である「文化」で再構成したものが「世界史」である。これを語りうるのは「西欧の近代思想のみ」。ヘーゲルの「自由」とウェーバーの「合理精神」が、西欧圏の「非西欧圏に対する優越性の主張の論拠」となる。

「世界史」はまた、「記憶を創り出す作業」でもある。そこで西欧は記憶の基となる未知なるものを「全世界から蒐集(しゅうしゅう)」した。世界は「西欧近代(略)の価値体系によって、整序され、分類され」ねばならなかった。

「文明」は、知や合理的思考が輝かしい未来を約束するという、「文化」は、国民や民族が価値基盤を与えるという“幻想”を発明し、西欧近代思想は世界に向かうところ敵なしとなる。ここに「西欧『近代』の最大のパラドックス」があると著者はいう。神話から解放してくれたはずの近代が新たな神話を生む。

21世紀のはじめに起きた9・11など様々な「未曽有の出来事」は、著者のいう「『世界史』がそれ自体ひとつの壮大な虚構の価値ではなかったか」を暗示していると思うが、世界遺産登録やオリンピック誘致に熱狂しているのを見ると、西欧近代思想は、実際まだまだ強力だ。本書を読み、つくづく21世紀には新しい理念が必要だと痛感した。
文明と文化の思想 / 松宮 秀治
文明と文化の思想
  • 著者:松宮 秀治
  • 出版社:白水社
  • 装丁:単行本(303ページ)
  • 発売日:2014-07-25
  • ISBN-10:4560083754
  • ISBN-13:978-4560083758
内容紹介:
それまで存在しなかった価値体系を創出するために案出された文明と文化の概念から、人間が神となった西欧近代を問い直す。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2014年09月21日

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