書評

『アベノミクス批判――四本の矢を折る』(岩波書店)

  • 2017/07/04
アベノミクス批判――四本の矢を折る / 伊東 光晴
アベノミクス批判――四本の矢を折る
  • 著者:伊東 光晴
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(168ページ)
  • 発売日:2014-07-31
  • ISBN-10:4000220829
  • ISBN-13:978-4000220828
内容紹介:
アベノミクスと称される安倍政権の経済政策は果たして有効か。近時の株高、円安はアベノミクスの恩恵なのか。アベノミクス第一、第二、第三の矢とされるものを順次検討し、いずれも景気浮揚にはつながらないことを明らかにする。さらに第四の矢ともいうべき、安倍政権の真の狙いである「戦後政治改変」の動きもあわせて批判する。

狙うは「戦後体制からの脱却」

本書は19世紀のドイツ国民ならぬ21世紀の「日本国民に告ぐ」憂国の書である。リベラル派の立場を鮮明にする筆者の「アベノミクス批判」に対して政権は反論するすべもない。これ以上明晰(めいせき)な批判はないと思われるほど理論的かつ説得的であるからである。

アベノミクスの第一の矢、異次元金融緩和は円安・株高をもたらした点で一般的には一応の評価を得てはいるが、著者は具体的なデータを基に「株価の上昇も円安も(アベノミクスとは)別の要因に基づくものであると断言」する。

だから、日銀副総裁に指名された岩田規久男氏が、通貨供給量の増加に伴う「人々の期待に働きかけ」を「おまじないのような話」と発言せざるを得なくなり、その講演録を読んだ著者は「戦争中の『皇道経済学』」を思い出す。

まさに、カール・シュミットが19世紀に向けた「宗教の魔術性は技術の魔術性へと転化した」との指摘が、21世紀の日本で実現したのである。

近代とは経済的側面からみれば成長の時代である。その成長政策(=第三の矢)という「技術」につなげるはずの金融緩和が幻想であるが故に第三の矢も「飛ばず」、名は勇ましい国土強靭(きょうじん)化政策=第二の矢は「予算上実現することはない」と「折った」。

「経済産業省の関係者が書いた」第三の矢を予算で財務省が「無視する」ので、後はイノベーションに期待するしかなく「いつ実現できるかわからないプランが並んでいるだけ」になる。それでも安倍総理が構わないのは「隠された第四の矢」が本命として用意されているからである。

それは「戦後レジーム(戦後体制)からの脱却」である。政治家にとって命より大事な言葉を蔑(ないがし)ろにしたり、財務省が「問題を先送り」したりして現政権は「戦前社会を志向している」という。命を削ってまで世を正そうとする著者の魂の叫びを政治家は真摯(しんし)に受け止めるべきだ。
アベノミクス批判――四本の矢を折る / 伊東 光晴
アベノミクス批判――四本の矢を折る
  • 著者:伊東 光晴
  • 出版社:岩波書店
  • 装丁:単行本(168ページ)
  • 発売日:2014-07-31
  • ISBN-10:4000220829
  • ISBN-13:978-4000220828
内容紹介:
アベノミクスと称される安倍政権の経済政策は果たして有効か。近時の株高、円安はアベノミクスの恩恵なのか。アベノミクス第一、第二、第三の矢とされるものを順次検討し、いずれも景気浮揚にはつながらないことを明らかにする。さらに第四の矢ともいうべき、安倍政権の真の狙いである「戦後政治改変」の動きもあわせて批判する。

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初出メディア

朝日新聞

朝日新聞 2014年10月12日

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