書評
『23区格差』(中央公論新社)
一極集中と人口減の関係は
「東京一極集中」とはいうが、その実体はいかに? 内実を見ると、とても東京を一括(くく)りにできないことがわかる。本書は、23区をデータで精査し、その内実をつぶさに示すものだ。23区内で最高の所得水準を誇るのは港区。最下位の足立区とは約2・8倍の格差がある。
その格差は想定内としても、差は急速に開いているというから驚く。全国的に所得水準は下がっており、足立区も例外ではない。だが、港区は上がっているのだ。その詳細が興味深い。
1990年代後半までの港区の所得増加率は高くない。急上昇するのは2000年代半ば。著者の分析によると、外から高額所得者がやって来たのだ。その原動力は「都心に暮らすという生活価値の再発見」だったという。金持ちが都心に住むのは当たり前と思うかもしれないが違う。以前は、逆に都心の空洞化が進んでいた。それが反転し、都心に住む生活が見直されてきている。主に富裕層の間で。それが今起きている東京一極集中のからくりだ。
一方、東京の合計特殊出生率は、47都道府県中最下位。東京に人口が集中すれば、人口減は加速すると目される。だからこそ「地方創生」が支持される。
だが、著者が提示するデータに注目すると、この10年間で子どもの数が増えた都道府県は、神奈川と東京のみ。神奈川は0・3%増、東京は4・0%増、23区に限れば5・1%の増加だ。東京の出生率は低くとも、人口増加に伴い、子どもの数も増えているという。
出生率を上げることが重要だという事実は動かない。だが、一極集中を食い止めれば人口減に歯止めがかかるという論理もどうやらアヤしい。データは事実を突きつけるが、読み方を間違えば、示すべき道もまた間違う。さてどうする少子化?
朝日新聞 2016年1月10日
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