書評
『地方消滅の罠: 「増田レポート」と人口減少社会の正体』(筑摩書房)
「一極集中」か「地方創生」か
「地方消滅」が話題を呼ぶきっかけとなった「増田レポート」への反論である。「増田レポート」が載る『地方消滅』(増田寛也編著)は、本欄でも取り上げた。「二〇一〇年から四〇年までの間に『二〇〜三九歳の女性人口』が五割以下に減少する市区町村数」が全国の自治体の約5割にのぼるというデータに基づき、地方の人口減少問題を提起。根本的な解決法はすでになく「撤退戦」を行うべきだと主張される。
本書の大枠は同じ。批判するのは解決案の部分だ。「増田レポート」は、地方の中核都市に人口を集中させることで高コスト化する末端のインフラをスリム化させ、持続可能性を高める提案をする。本書はその「選択と集中」に反論する。「東京一極集中に歯止めをかける」という増田レポートの趣旨に「強く同感」し、「私たちが本来持っていた都市・農村関係、あるいは地方/中央の関係の健全さを取り戻すこと」が「(人口減少)問題解消のための条件」だという。
現代日本の問題は「一極集中」対「地方創生」のせめぎ合いとして捉えることができる。
発展する都市部への人口流入を放任し都市の経済発展を促そうとする立場が「一極集中」派とするなら、それを食い止めて地域の存続を優先させようというのが「地方創生」側。前者は、小さい政府・新自由主義的な立場であり、後者は大きい政府、リベラル派ということになる。前者は「地方切り捨て」と、後者は「ばらまき反対」と批判されるだろう。両者のバランスの上で将来を考えるのが道筋だ。
本書は「一極集中」を端から敵視する。コストや経済成長の概念が抜け落ちている部分は「増田レポート」が突きつけた厳しい提案を看過するものに読める。「経済の原理から共生の原理へ」。そう言えば人気者にはなれるだろうけど……。
朝日新聞 2015年3月15日
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